鞆の浦(広島県福山市鞆町)は,古くから繁栄してきた港町として著名であり,現在でも歴史的な町並みや港湾施設を多数残している。ところで,鞆の浦は山と海に囲まれた狭隘な土地柄にも拘わらず,多くの社寺が存している。今回,鞆の浦の社寺建築の調査を行ったので,その結果をもとに鞆の浦の社寺建築の建築年代と細部意匠について述べることにしたい。
まず,鞆の浦には広島県内には建築遺構が少ないとされる17世紀に造立されたものが14棟も残っていることが判明した。それは,商人の経済力を背景としたものと考えられる。また細部意匠は,県内の他地域と比べて先進的かつ秀逸なものが多数あり,京都や大坂から直接に最新建築技術が入ってくるという地理的環境によるものと考えられる。また随所に見られた独特な台輪は,明王院本堂(福山市)を模倣したものと考えられ,地域における細部意匠の伝播を伺うことができた。