瀬戸内海におけるウマヅラハギの漁況について,愛媛,広島両県の農林水産統計年報と光,弓削島,仁尾,大浜,箱浦,走島,大飛島,六島,真鍋島,北木島,白石島,福田,北灘の各漁業協同組合などに水揚げされたウマヅラハギ漁獲量の記録とを用いて解析を行ない,次の諸点を明らかにした。
1) 瀬戸内海のウマヅラハギの主たる漁場は伊予灘,安芸灘,燧灘(備後灘を含む)および播麿灘であるが,漁獲量は概して東部よりも西部の方が多い。そして瀬戸内海に隣接する宇和海も良好な漁場である。
2) 主たる漁業種類は伊予灘,安芸灘では小型底曳網,燧灘と播麿灘では桝網であり,宇和海は旋網であるが,各地ともウマヅラハギはこれらの漁業種類以外に刺網,一本釣,船曳網,敷網などによっても漁獲される。
3) 漁期は冬期を除く4~12月であって,盛漁期は春期であるが,秋期の漁獲量も多い。そして豊後水道に近い海域では漁獲量は春期にも多いが夏期,秋期にはさらに多い。
4) 燧灘では4~6月に約500統の大型桝網が操業され,ウマヅラハギを多獲する。この海域では1960~'64年の期間が特に豊漁であったが,この間の年間漁獲量は百数十トンと推定される。桝網の始漁期,盛漁期,終漁期については燧灘の各地区および播麿灘の北灘共にほぼ一致しているが,各地区とも漁獲量の経日変化はかなり大きく,概して漁期の前半において漁獲量が多い。
5) 燧灘の白石島,北木島,真鍋島,六島,走島,大飛島,弓削島,大浜,仁尾および播麿灘の北灘におけるそれぞれの桝網のウマヅラハギ日別漁獲量の1963年と'64年のデータを統計的に処理した結果,日別漁獲量について相似変動が認められ,関連性が強いと考えられるのは燧灘東部の白石島,北木島,真鍋島,六島,走島,大飛島の6地区間においてである。そして弓削島,大浜,仁尾,北灘の相互間において,またこれらの地区と前述の6地区との間においては相似変動が認められる場合と認められない場合があって,必らずしも関連性があるとはいえない。
6) 桝網の操業水域に近い場所で操業された刺網の日別漁獲量と桝網のそれとを比較した結果,両者の間に正の相関関係が認められた。しかし桝網の漁獲量と刺網の漁獲量が極大になる時期には若干のずれがあり,漁期の前半では桝網の漁獲量がより多いのに対し,後半では刺網の漁獲量がより多い。さらに桝網と刺網の盛漁期における漁獲物の性比については,桝網の漁獲物は漁期が進むにつれて雌の比率が大きくなる傾向があるのに対し,漁期の後半における刺網の漁獲物は雄の占ある比率が大きい。
7) ウマヅラハギ漁獲量の経年変化について海域間の関連性を検討するために,愛媛県の燧灘,伊予灘,宇和海の各海域および光,弓削島,大浜,大飛島,六島,福田,北灘そして相模湾の米神の各地区について,相互間におけるSPEARMANの順位相関係数を求めて比較した。その結果,瀬戸内海の西部海域,宇和海および相模湾(米神)の相互間,燧灘の大飛島,六島,弓削島,大浜の相互間(ただし大飛島―六島は除く)においてそれぞれ豊凶の一致性が認められた。しかし前者に属する海域または地区と後者に属する地区との間には,何れの場合も豊凶の一致性は認められない。したがって瀬戸内海におけるウマヅラハギの漁況を経年的にみると,宇和海を含めた西部海域と中部海域とはそれぞれ独立的であるが,それぞれの海域内ではよく類似している。東部海域に関しては結論的なことはいえない。