前報に述べた鉄-糖錯体の調製法では,溶液中に生成した錯体をEt-OHで沈でんさせ,遠心分離する方法をとった。この方法では未反応の遊離糖もEt-OHで沈でんするため,調製した標品にかなりの量の遊離糖が混入していることが予想できる。そこで,鉄(III)-糖錯体と遊離糖を分別するためにSephadexによるゲル濾過を試みた。
溶離液のpHや種類によっては,ゲル濾過中に鉄(III)-糖錯体が分解することが分った。この点を中心に種々検討した結果,bicarbonate buffer (pH9.5,μ=0.1)を用い,はじめにSephadex G-15,そのV0フラクションについてG-50でゲル濾過することにより,Fe/糖=1の組成比をもった鉄(III)-乳糖錯体を純粋に得ることができた。しかしこの錯体はモノマーではなく,分子ふるい効果から推定してM.W.=5,000~10,000のポリマーであった。この分子量は,Fe(III)-アコイオンがアルカリ性溶液中で形成するポリマーの分子量に比べて著しく小さい。
以上の実験結果に基づいて化学構造を考察した結果,SPIROらのcoating説をとった。そして糖がFe(III)に配位することによってFe(III)-アコイオンの重合を抑制すると考え,Fe(III)の腸管吸収,とくに受動輸送に対する寄与を考察した。