中等教育研究紀要 /広島大学附属福山中・高等学校 64 巻
2024-04-01 発行

当事者意識をもった課題探究学習につながる歴史授業開発 : 「近代の徴兵制」を事例に

辻本 成貴
全文
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Fukuyama-ChutoKyoiku-KenkyuKiyo_64_7.pdf
Abstract
本研究の目的は,生徒が主体的な課題探究を通して,近現代の歴史を理解する授業を開発することである。歴史学習において,生徒が歴史に対して当事者意識をもって学習することが課題とされてきた。歴史を科学的に探究する歴史学習がねらいとしてきたのは,生徒が国家政策や当時の社会構造を理解し,それらを説明する概念や法則,仕組みを解明することであった。しかしこうした歴史学習は一方で,生徒にとって歴史が自分とは離れたものであるという認識を形成するものであったと考える。本研究では,過去の様々な立場の人々の「語り」に注目する。近代の「徴兵制」をテーマに据え,「人々は国家によって戦争に巻き込まれた存在である」という既存の見方を乗り越えるため,徴兵制にまつわる様々な人々の語りに関する資料を読解し,考察させる。こうした活動を通して,生徒の歴史学習は,当時の社会構造の中の個人を通したものとなり,国家の行為と個人の関係を踏まえた「戦争の関係者」という視点を得たものとなると考える。本稿では以上を踏まえて開発し,実践を試みた授業単元の構成と,生徒たちの思考がどのように深まったのか,その成果と課題を示す。