外在的動機付けに関する経済モデルは、行動主義心理学のオペラント条件付けが前提とされるとき、インセンティブ効果として説明され、認知心理学のいう帰属理論、過剰正当化仮説等が前提とされるとき、逆に、クラウディング・アウト効果として説明される。同じ外在的動機付けという刺激に対し、一方では、インセンティブ効果が表れるとして説明され、他方では、クラウディング・アウト効果が表れるとして説明される。本稿では、その論理的根拠となる心理学理論は、なぜ、このように極端に異なるのかを明らかにしようとするものである。そして、経済学モデルとしていずれの心理学理論を論理的根拠とするのが適当なのかを議論するものである。
内発的動機付けのクラウディング・アウト効果の論理的根拠となったよく知られた認知心理学の研究に、Lepper(1981)の過剰正当化仮説およびDeci and Ryan(1985)の帰属理論がある。これらの研究では、外在的条件付けは、内発的動機付けないし内発的に統制された行動を減少させると説明される。ところが、行動主義心理学は、「内発的に統制された」行動も、特定反応を生起させる強化因子により維持、促進させられるとする。したがって、このとき、外在的条件付けに関連する問題は、内発的に統制されたある特定行動の頻度を高めるための強化がなされるとき、内発的動機付けに対し有害効果あるいは推進効果のいずれの効果が表れるのかを確認する問題といえる。本稿では、一方で、認知心理学の視点から、これらの有害効果の実証的支持が、簡潔に要約され、そして、この現象を説明するいくつかの考えられる解釈が提示される。そして、他方で、行動主義心理学の視点から、そのような効果の一般性および社会的重要性を反映する研究結果が、議論される。ただし、その結論は、外在的報酬が、合理的達成業績基準を基礎とした達成業績に対する承認の伝達であり、支払い条件が非競争的であり、さらに、報酬支払いが反復的であるならば、そのような有害効果は一時的なものであり、そして、また、ほとんど起こりそうもないというものである。本稿では、これらの議論をもとに、外在的動機付けの経済モデルは、クラウディング・アウト効果、あるいは、インセンティブ効果として議論すべきかを明らかにする。