私たちは、本研究ノートで、1980年代に考察されるようになった心理ゲームをとりあげる。とりわけ、Matthew Rabin, “Incorporating Fairness into Game Theory and Economics,” American Economic Review, Vol. 83, No. 5, 1993, pp. 1281-1302を中心に検討する。伝統的ゲームでは、プレーヤーは、主として、物質的利得に動機付けられて行動するものとして分析されている。しかし、心理ゲームでは、伝統的ゲームに情緒的心理過程を組み込むことで、プレーヤーは、物質的利得(当該プレーヤーが相手プレーヤーの行動に対していだく信念)だけではなく、心理的利得(当該プレーヤーが相手プレーヤーの情緒的心理に対していだく信念)にも大きく依存すると考える。
Rabin(1993)は、心理的動機として公正概念を検討している。
• 伝統的ゲームに、心理的動機としての公正概念を反映させることを考えている。
- 人々は、自分を助けてくれる人を助けたいと思っている。
- 人々は、自分を傷つける人を罰したいと思っている。
さらに、心理的動機をモデルに反映させた結果は、ナッシュ均衡とは異なる新たな均衡が生じることを明らかにしている。
• 心理的動機をモデルに反映させた結果は、公正均衡(fairness equilibria)を生じることを明らかにしている。
- ある人が他のある人の物質的利得を最大化する相互最大(mutual-max)の結果は、公正均衡である可能性がある。
- ある人が他のある人の物質的利得を最小化する相互最小(mutual-min)の結果は、公正均衡である可能性がある。
- あらゆる相互最大のナッシュ均衡、あるいは、相互最小のナッシュ均衡は、公正均衡である可能性がある。
- 特に、自分が獲得する、あるいは、犠牲にする利得が小さいならば、相互最大の結果あるいは相互最小の結果の集合は、およそ、公正均衡である。
- また、自分が獲得する、あるいは、犠牲にする利得が大きいならば、ナッシュ均衡の集合は、およそ、公正均衡である。
本研究ノートでの私たちの視点は、あくまで、内発的動機付けのクラウディング・アウトを説明する有力な理論として、心理ゲームを検討することである。