19世紀末イギリスで考案された田園都市は、都市づくりへの関心を引き起こし、それが田園都市運動となって広がっていった。本研究では、近現代イギリス(主にロンドンとその周辺部)における田園都市論を巡る動きを芸術文化論の視点から考察する。特に田園都市運動に着目し、その中で実現していった田園都市や田園郊外建設の動きを見ていく。それらの新しい都市を目指した人々の思想や、理想としたイメージが都市にどのように反映されたのか明らかにする。産業革命以降、ロンドンの中心部に生じた都市問題を根本的に解決するものとして、E・ハワードは田園都市を提唱した。田園都市は二つ実現したが、どちらも従来の住宅に比べ水準が高く、快適な生活を約束するものであった。結果的に高価な住宅地になったため居住できる層が限定された。同時期に田園郊外も建設されたが、同様な性質を持っていた。社会的均衡という目標が達成されなかったなど、本来想定していた田園都市が実現したとは言い難い。だが田園都市や田園郊外で生み出されたその質の高い都市空間は、次世代の都市生活を想像させた。そういう新しい可能性を示し、夢を持たせるようなイメージこそが田園都市が持つ力であったと言える。