日本のテレビドラマでは、在日朝鮮人がどのように描かれてきたのだろうか。本稿では在日朝鮮人と呼ばれるエスニック・グループに出自をもつ松田優作の主演ドラマ「探偵物語」で、多くのマイノリティが登場しながらも日本最大のマイノリティとでもいうべき朝鮮人が描かれなかったことから、在日朝鮮人の隠蔽という問題を考える。これは、アメリカ発の世界的テレビドラマといっていい「刑事コロンボ」における黒人表象と重なるものだといえる。すなわち、イタリアン(ホワイト・マイノリティ)であるコロンボが、WASPの犯人を追いつめるというドラマの影に、本当の民族問題としての黒人やプエルトリカン(あるいはユダヤ系)は描かれないという構図をもっており、これが「探偵物語」の朝鮮人隠蔽と相似形であると考えるからだ。また、その「探偵物語」に先行するドラマとして渥美清主演「泣いてたまるか!」のなかの「豚とマラソン」を取りあげ、日本のテレビドラマで朝鮮人がいかに描かれていったのか、そして在日朝鮮人の描き方として「人格者」としてしか描けない、すなわち隠蔽のコードに埋もれてしまうまでの筋道を論じる。