運動スキルの習得段階を習得段階→挿入段階→転移段階と分けて, それぞれの段階に異なった系列パターンの追従課題を設定した。そして, 習得段階の強化試行数と挿入課題の試行数から9つの条件に大学生男子90名を10名つつランダムに割当て, 系列パターンを追従させることにより, 運動情報の記憶と学習に関係したパラドックスを検討した。結果は4つのパフォーマンス測度(正反応, 見越反応, 誤反応, 無反応)から運動と認知の相互作用を検討した。そして主要な結果はつぎの通りであった。習得段階における強化数の増大は見越反応の増大と正反応の減少という相補性を示したが, 挿入課題の試行数の増大がその後の転移を改善するという興味ある結果を得た。また, 挿入課題の干渉を克服するには強化数の増大にともなう冗長性が大きく貢献することも確められた。そして, これまで言語や運動の課題で見出されている, 分散効果, 文脈干渉効果, 練習の多様性効果といったパラドックスと似た現象が挿入課題(ランダム系列)を導入することにより生じた。これらの結果に対する説明は今後の課題として残された。