本稿は, 中国やブラジルと並んで自動車工業国の新興国(BICs)として台頭しているインドを対象に, 2000年代における同工業の動向と空間構造を明らかにすることを目的とした。同国では小型乗用車を中心に自動車市場が急速に拡大しており, 各メーカーは相次いで新規の投資を実行している。それは自動車工場の新規立地として空間的には発現しており, 2つの傾向が見いだされた。1つは, 既存の自動車工業集積地(NCR, チェンナイ, プネーなど)の郊外に開発されている工業団地への立地であり, その外延的拡大をもたらしている。いま1つは, 立地に際して多大な恩典が付与される特別カテゴリー州(ウッタラカンド州とヒマーチャル・プラデーシュ州)への展開であり, この時期の市場競争の激化を背景に, 立地を介して生産コストを減じることがその要因であった。そして, 第1の傾向は, 1990年代に顕著となった既存集積地への立地の延長線上にあるが, 第2の動向は従来のインドにはみられなかった新しい傾向であると捉えられた。