腱縫合や腱移植を行ったとき, 縫合された腱と周囲組織との癒着を防止できれば, 腱の滑動性が保たれて治療成績は著しく向上する。現在使用されている癒着防止材は二次的に摘出が必要であったり, 癒着防止効果が不明確であるという問題を残している。著者は生体内で吸収される癒着防止材として乳酸-カプロラクトン共重合体多孔質膜(porous L-lactide-caprolactone copolymer membrane以下LLCC膜と記載する)を用いた実験を行った。またこの膜の癒着防止効果を増強させる目的で, 滑液の主成分であるヒアルロン酸(hyaluronic acid以下HAと記載する)を併用する方法についても検討した。ビーグル犬の前肢において深趾屈筋腱を切断・縫合した後, 以下の4群すなわちLLCC群(縫合部を中心にLLCC膜を腱周囲に巻く), LLCC+HA群(LLCC膜を巻いた後, 周囲にHAを滴下する), HA群(縫合部周囲にHAのみを滴下するのみ), 対照群(腱縫合後, 何も処置せず)を作製した。術後3週にて屠殺し, 肉眼的, 組織学的ならびに力学的評価を行った結果, LLCC膜には確実な癒着防止効果があり, 組織反応も軽微であることが確認された。しかし, この膜を使用することにより腱の治癒が遷延した。LLCC膜の孔径や重合組成比等に関して今後改良すべき点はあるが, 膜の周囲には腱鞘様構造物が構築されており, 組織再生の観点からも, LLCC膜は生体内吸収性癒着防止材として有用性が高いと結論した。