半側空間無視は右半球脳損傷による後遺症として比較的頻繁に現れ,患者の日常生活への復帰を困難にする因子として知られる.本研究はこれに対するアプローチにおいて患者の自発性という問題に焦点をあて,これを促すことが半側空間無視の改善を生むかどうかを検証することをめざしたものである.なお,本研究において“自発的解決を促す介入"とは患者が興味のある課題を行う中で,無視症状の正しい認識と代償戦略の立案・獲得を促すことを目的にデザインされたものである.2症例を対象にそれぞれA-B-A'型のシングルケースデザインを用いて実験を行った.独立変数を“自発的解決を促す介入"の有無,従属変数を半側空間無視による見落とし数を標的とした半側空間無視量とし,A,B,A'各期それぞれ10回のセッションを週3~4回の頻度で実施した.さらに汎化の程度を調べる目的で,行動性無視検査を実験開始時と各期の終了時に計4回実施した.その結果,半側空間無視量は2症例ともB期において改善を示し,行動性無視検査の成績も1症例においてB期終了後に改善を示した.また,B期で得られた代償法のA'期における使用や自発的な無視に関するコメントの出現が認められた.すなわち,“自発的解決を促す介入"は半側空間無視に対する病識の芽生えと代償法の獲得ならびに拡張的使用を促すものと判断された.