厳島神社は, 平清盛による仁安造営以来, 多くの社殿を有してきた。仁安造営後, 二度の火災に遭ったため, 仁安度の社殿は一棟も現存しておらず, 二度目の再建となる仁治度のものとしても, 本社拝殿と祓殿を挙げるのみである。広島大学総合博物館にある仁治度厳島神社復元模型は, その後に失われたり改変されたりした社殿を往時の状態に学術的に復元したものである。本稿は, その模型の設計に際して材木注文により復元考察を行った過程を示すことを目的とする。
仁治度復元社殿の構造形式は, 柱に陸梁(ろくばり)を架け, 梁上は豕扠首(いのこさす)とし, 一軒疎垂木(ひとのきまばらだるき)の化粧屋根裏に切妻造(きりづまづくり)とするなど, 比較的画一であった。この基本的な構造形式を軸に, 各社殿の格式や機能に応じて細部意匠が決定されたものと考えられる。この復元模型により, 現在の厳島神社の社頭景観は, 仁治度と細部において変化したところが多いものの, 全体としての趣はほぼ踏襲されていることが鮮明となった。