表現技術研究 17 号
2022-03-31 発行

The Merchant of Spain: Coins and Commodities in Othello

スペインの商人 : 『オセロウ』における貨幣と商品
全文
707 KB
BRCTR_17_h1.pdf
Abstract
『オセロウ』に関するこの論考は、デズデモウナの精神的美徳が、彼女の黒い、そして/もしくは白い、ハンカチという形で物質化され、商品化されていることを論証するものである。作品の材源である Giraldi Cinthio の Hecatommithi (1565) の中では、ハンカチは、イアーゴウの原型にあたる「旗手」からカシオウの原型にあたる「伍長」に渡り、後者の愛人がそれに施された刺繍柄を手本に窓辺で同じような刺繡をしているところを、ムーア人に目撃させるという一度だけの目的のために使われる。ところがシェイクスピアの劇では、ハンカチの人から人への移動が顕著に増幅され、刺繍の柄を写し取るという行為が奇妙なほど繰り返される。この考察は、商業的な文脈でデズデモウナのハンカチに注目しながら、シェイクスピア研究における既に確立された、実は関連する二つの批評理論に依拠することになる。すなわち、劇作家は、経済的規定要因が変化しつつあった初期資本主義の下で作品を書いていたと考えるマルクス主義的読解と、この戯曲のスペイン的要素が有する同時代的な意義に基づく歴史主義的な読みである。これらの批評理論を援用して、『オセロウ』は、経済に関わる側面を色濃く持った他の幾つかのシェイクスピア作品と同様に、初期近代における家政 (domestic economy) と市場経済 (market economy) との衝突を主題として扱っている、少なくとも反映しているということを明らかにする。そして、シェイクスピア自身の経歴を彼の父親の経歴と併せて考察することによって、経済的流動性が急激に増す時代の中で活動した劇作家シェイクスピアの矛盾した姿勢を指摘する。
著者キーワード
Shakespeare
Othello
Early Modern Economy