インドでは2010年4月よりRTE法が施行された。本稿は同法がどのような歴史的・社会的経緯と内容を持った法律なのかを,社会的弱者層の教育機会に着目しながら考察した。第一に,独立前から2000年前後までのインドにおける無償義務教育をめぐる動向について整理し,インド憲法第45条(旧)の無償義務教育規定や,コモン・スクール・システムのアイデアが実現されてこなかったことを述べた。第二に,1993年ウニクリシュナン事件最高裁判決で私立学校の運営の自律性を認める一方で,基礎教育の権利を14才までのすべての子どもに認める判断が示されたことを明らかにした。第三に,2002年第93次憲法改正(第21条A教育への権利規定の追加)の際にも非補助私立学校の運営の自律性について議論がなされたことを説明した。第四に,2009年RTE法の成立が遅れた要因として法施行に伴う財政負担の問題とともに,社会的弱者層の教育機会保障が問題となったためであることを述べた。第五に,RTE法の逐条解説を行い,前述の社会的弱者層の教育機会がRTE法においても焦点となっていることを明らかにした。