本稿は,近年生産が急増しているインドの自動車部品工業に着目して,その産業的特性と立地ダイナミズムを明らかにすることを目的に起稿したものである。まず,インド自動車部品工業会に加盟する企業の名簿に基づき,本稿で使用するデータベースを作成した。対象とした610社の企業規模には大きな差異が認められ,全体的には少数の大企業と多数の中小企業からなるピラミッド型の構成を呈することが示された。また,対象とした企業の大部分はOEMサプライヤーであったが,それらの工場数と納品先自動車メーカー数との間には非常に強い相関関係があることが読み取れ,従業者数でいえば500人以上の企業から複数工場化が進んでいる。空間的にみると,主要自動車メーカーの組立工場配置に対応して,インドにはデリー首都圏,マハーラーシュトラ州西部,チェンナイ-バンガロールという3つの自動車部品工業集積地域があることが導出された。しかしながら,その構成要素である部品企業の本社,主要工場,分工場の立地パターンには,偶然ではない差異があることが明らかとなった。所定の集積地域でいえば,本社はその中心となる都市に置かれ,主要工場,分工場になるにつれ,郊外に分散していく傾向を強める。これが集積地域の外延的拡大をもたらしている。また,分工場は所定の集積地域を離れて,他の集積地域や新しく自動車工場が立地した場所に設立される割合も高いことが確認された。このような分工場の配置は,部品企業の複数工場化と同時に多所立地化をもたらしている。