学習システム研究 3 号
2016-03-31 発行

特別講演2 「現代の学校が抱える課題とは何か,新しい教育課程に求められていることは?」

大杉 昭英
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TRDLS-jpn_3_55.pdf
Abstract
本講演は,「現代の学校が抱える問題とは何か,新しい教育課程に求められていることは何か」という主題のもと,理想とする状況,現状,問題の改善の方向性,改善にあたって検討すべき点の4つの内容で構成される。

理想とする状況は,中央教育審議会の教育課程企画特別部会が示す「目指す未来の姿」にみることができる。それを一言で言えば,「一人一人が自信に溢れた,幸福な人生を送れる」ということ,さらに具体的に言えば,「社会に出て国の内外で仕事をして人生を築いていく」,「知識と技能を身に付けて,十分な思考力と判断力を磨き,主体性を持って協働していく」ということである。

このような理想に対する現状は,あまり芳しいものではない。国際調査では,わが国の子どもは他国の子どもに比べて自己肯定感や社会参画の意識が低いこと,国際的な学力調査では,思考力に依然として課題が残っていることが示されている。また,わが国の教師の指導状況に関する調査では,基礎力の定着が重視され,今日的な社会的課題の取り扱い,論理的,科学的な思考力育成,自身の考えやその根拠に対する批判的吟味等があまり重視されておらず,そして,協働的な学びもあまり積極的に推進されていない現状が浮かび上がってきた。その背景には,前回の学習指導要領の改訂の際,教育内容中心から資質・能力育成重視の方向に学習指導要領の内容を徹底できなかったということがある。具体的には,実社会と結びついた資質・能力とはどのようなものか,また,活用される各教科の知識とはどのようなものかということを学習指導要領において具体的に書き表すことができなかったためである。

この理想と現実の乖離が,現在の学校が抱える問題であり,新しい教育課程に求められていることでもある。このような問題の改善の方向性として,以下の3点が挙げられる。第一に,教育課程の基本はコンテンツベースからコンピテンシーベースに転換するということである。第二に,そのために何ができるようになるか,そのために何を学ぶか,どのように学ぶかを検討することである。第三に,それができるようなカリキュラムの全体構造と各教科の目標と内容編成,あるいは教育計画を考えることである。

最後に,改善にあたって検討すべき点は,知識の質,知識観の2つである。第一に,資質・能力として重視される思考力・判断力・表現力が働いた結果としての思考・判断・表現の質は活用される知識の質に依存しているため,まず,知識の質を考える必要性があることである。第二は,答えの定まった問題を取り扱う実在論的授業観と定まっていない問題を取り扱う社会構成主義的授業観があることを意識化し,これらを扱う際,どちらかに偏らないようバランスを考慮する必要性があることである。
内容記述
学習システム促進研究センター教育講演会:(2015年6月25日:広島大学教育学研究科開催)
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