本講演は,「21世紀の教育の課題は何か,現代教育の何が問題なのか」という主題のもと,次の4つの柱で構成される。第一に,学習指導要領改訂に向けた中央教育審議会への諮問内容,第二に,諮問の背景,第三に,中央教育審議会の議論の方向性,第四に,次期学習指導要領の改善点,である。
学習指導要領の改訂に向けて,2014年11月20日,中央教育審議会に,文部科学大臣より諮問がなされた。それに伴い,中央教育審議会企画特別部会では,次の3つを審議事項の柱として議論されている。1つは,教育目標・内容と学習・指導方法,学習評価の在り方を一体として捉えた新しい時代にふさわしい学習指導要領等の基本的な考え方について。2つは,育成すべき資質・能力を踏まえた,新たな教科・科目の在り方や,既存の教科・科目等の目標・内容の見直しについて。3つは,学習指導要領等の理念を実現するための,各学校におけるカリキュラム・マネジメントや,学習・指導方法の改善支援の方策につい
て。
この諮問の背景となっているのは,少子化,超高齢化,超高齢社会,将来の急激な人口減少による国民一人ひとりの生産性向上の必要性,一人の人間が創出できる能力を高めざるを得ない状況というものである。この状況に対応するため,国立教育政策研究所では,諸外国やOECDで取り組まれた教育改革を整理し,将来どのような能力を国民に教育するべきかを検討し,以下の3つの資質・能力を抽出した。1つは,基礎的リテラシー。2つは,認知スキル。3つは,社会スキル。これら3つを基につくられたのが,「道具や身体を使う(基礎力)」「深く考える(思考力)」「未来を創る(実践力)」という21世紀型能力である。
そして,中央教育審議会の議論の方向性は,「今後の教育課程の在り方」に関する議論の要点にみることができる。具体的には,教育課程に関する現状と課題,新しい学習指導要領が目指す姿,評価の在り方について,指導要領等の理念を実現するための方策,といったものが挙げられている。ここから,資質・能力やアクティブ・ラーニングを各教科・領域の中にどういうふうに位置づけていくのかというところが,今後の中央教育審議会の議論の方向性になると見られている。
最後に,改善したいことがらとして,養成・研修と現場での取組みの2つが挙げられる。養成・研修に関しては,資質・能力,アクティブ・ラーニングを用いて,各教科,領域の内容が十分に学習される授業の組み立て,実行する力を大学での養成と現職教員の研修の両方で育成する必要性である。また,現場の取り組みでは,現場の教員は何のために(教育目標),何を(教科内容),どのように(資質・能力)育てるのかに関して説明ができないことが課題であり,身につけたい資質・能力のキーワードとなる完全に観察可能な動詞に絞り込むことによる指導と評価の改善の必要性を指摘した。