本講演は,学習科学のめざすべきこと,その背景,学習科学が繋ぐ学び,その実際の体験(ワークショップ)からなっている。
学習科学は,まだ人類が見たことないような創造的な知力というようなものを作っていくべきではないか。それは,「学習科学はパスツールを目指そう」ということを提唱する立場のジェームス・グリーノではなく,彼に反駁する立場のカール・ベライターの主張である。
学習科学は発展しなければならないが,その背景として,時代が学びの刷新を求めていることが挙げられる。それは,次の3点から説明できる。第一に,みんなが協同して解答を見つけ出すことが必要なこと,第二に,情報化・グローバル化が進み,ICT能力やスキルによる格差を作るので,その格差が補えるような「みんなが知的に居場所のある (knowledge inclusive)」世界をつくる力を養う必要があること,第三に,そのためにも学習科学が進める学びの繋ぎが必要であること,である。
とりわけ,第三の学びの繋ぎは,①日常生活と学校での学び,②世代間の学び,③学んだことの間を繋ぐ学び,の3点において重要である。
カール・ベライターに示唆され,知識を生活ベースで事物や現象に直結している知識と,世界を説明したり理解したりするための概念,道具として作り出されたタイプの知識という2つにわけることを試みる。この区別によって,基礎と発展のメリハリをつけることが可能であり,さらに,学校に同年齢の子どもが集まることの意味は,仲間同士で学んだことを繋げ,世界についての「説明」をするという学びに求めることができると主張する。
その実例として知識構成型ジグソー法を体験する。この体験は,出された問いに関して,それぞれ違う資料を分担して,みんなが違う答えを知っていながらも,それだけでは答えられないという状況を作るものである。即席でそれぞれの資料のエキスパートになって,そのあと自分の知っていることを持ち寄って交換しながら,課題を答え,自分たちの説明を創り上げていく。
学習科学が行いたいことは,出発点を大人が与えるけれども,子どもに本当に答えてほしい問いがあって,それを子どもが答えていくということである。