Comparative genomic hybridization (以下,CGHと略す)法は,腫瘍細胞における全ゲノムの相対的なコピー数の増減を網羅的に検出する手法である。本研究の目的はCGH法を用いて,早期舌癌(T1-2NOMO)の染色体異常と予後の関連性を解析することである。対象は1998年4月1日から2001年3月31日に,広島大学医学部放射線科において舌癌の組織内照射前に原発巣から組織が採取できた早期舌癌26例(I期6例,II期20例)とした。男女比は15:11,平均年齢61.7才,初診からの観察期間の中央値は25.5ヶ月であった。実験方法は腫瘍細胞DNAと正常細胞DNAをそれぞれ異なる蛍光色素で標識し,スライドガラス上で正常分裂中期(染色体)細胞とハイブリダイゼーションを行った。その後,CCDカメラ付の顕微鏡にて画像を取り込み,染色体上のそれぞれの蛍光色素の量を測定し,コピー数の増減を解析した。結果は,lq(62%),5q(62%),16p(65%),19p(77%)にコピー数の増加を認め,3p(31%),21q(35%)にコピー数の減少を認めた。I期とII期の病期別の比較では,I期よりもII期で1qのコピー数の顕著な増加が認められた(17% vs. 75%,p<0.05)。一方,患者の観察期間中に認められた8例の後発頸部リンパ節転移の内7例は病期II期であった。特に,II期での後発頸部リンパ節転移症例はリンパ節転移のない症例に比べ,3qのコピー数増加が高頻度に認められた(86% vs. 31%,p<0.05)。この結果,CGH法を用いた早期舌癌の染色体異常の解析は,早期舌癌の予後因子としての診断に有用であることが示された。特にII期の舌癌にみられる3qの増幅は後発頸部リンパ節転移と相間していることから,患者治療法の選択に際して重要な判断材料である。