腱板の修復機転は未だ詳細に解明されておらず, 修復に影響を与える外的因子についての報告も少ない。本研究は外的因子の一つである肩峰下滑液包由来の滑膜組織が腱板の修復機転に及ぼす影響について検討することを目的とした。実験1として術中に採取したヒト腱板組織に, 直径3mmの円柱状の欠損を作成したF群(n=30), 欠損部を同一個体の腱板組織で充填したR群(n=30), 欠損部を同一個体の肩峰下滑液包の滑膜組織で充填したS群(n=30)を作成して器官培養を行った。培養1,2,4週で各群10例ずつ欠損部周辺の腱板組織をヘマトキシリン・エオジン(以下H.E.)染色により組織学的に評価し, 免疫染色によりI型プロコラーゲンとproliferating cell nuclear antigen(以下PCNA)陽性細胞の発現を観察した。F群は30例全例で細胞と膠原組織の増生を認めず, R群は30例全例で充填した腱板組織と元の腱板組織の連続性を認めなかったが, S群では2週の10例中7例, 4週の10例中8例で充填した滑膜組織と腱板組織の癒合した所見が認められた。欠損部周辺の腱板組織のI型プロコラーゲン, PCNA陽性細胞の発現は1,2,4週を通じてS群に最も多く観察された。実験2としてラット腱板組織に直径3mmの欠損部を作成したD群(n=24)と欠損部に滑膜組織を移植したG群(n=24)を作成した。術後1,2,4,8週でH.E.染色による腱成熟度を観察し, 点数評価した。また, 免疫染色によりPCNA陽性細胞の発現を, in situハイブリダイゼーションによりI型, III型プロコラーゲンmRNAの発現を観察した。腱成熟点数, PCNA陽性細胞率は術後8週までG群がD群より高値を示し, 1週, 2週の腱成熟点数は両群間に有意差を認めた(p<0.05)。I型, III型プロコラーゲンmRNAの発現部位はG群では滑膜組織に隣接する腱板全体, D群では欠損部周囲の腱板の滑液包側および関節側に認められた。本研究の結果より, 腱板には内在性の修復能力が存在し, 滑膜組織が腱板の修復機転に有効に作用することが示唆された。