免疫機序による好中球減少症において, 好中球Fcγ receptor IIIb(Fcγ RIIIb)上の抗原であるNA系抗原やFcγ RIIIを標的とする抗体がしばしば検出される。抗体検出に用いられるパネル好中球と患者好中球のNA系抗原の表現型の同定にはモノクローナル抗体(mAb)または血清抗体が用いられてきた。このたび, NA1抗原認識mAb, TAG1,NA2抗原認識mAb, TAG2,Fcγ RIII認識mAb, TAG3の3つのmAbを作製した。TAG1,TAG2,TAG3をNA系各型パネル好中球およびNA-null好中球と反応させ, NA系抗原に対する反応性を検討した。また, 各種末梢血血液細胞および白血病細胞由来の各種ヒト由来培養細胞株との反応性も検討した。TAG1はNA1陽性好中球とのみ反応し, TAG2はNA2陽性好中球と強く反応するとともにNA1/NA1好中球にも弱く反応した。TAG3は3タイプの好中球と反応した。いずれのmAbもNA-null好中球とは反応しなかった。TAG2とTAG3はCD14陽性細胞の一部とCD56陽性細胞の多くにも反応し, NA2タイプを示すポリペプチド結合型のFcγ RIIIaに反応したと推測された。TAG1,TAG2,TAG3はphosphatidylinositol-specific phospholipase Cで前処理した好中球とでは, 反応性は顕著に減弱しglycosyl-phosphatidylinositol結合型のFcγ RIIIbと反応すると考えられた。TAG1,TAG2,TAG3の認識エピトープの検討には他のFcγ RIII関連mAbによる抑制試験を行った。TAG1はNA1特異的MG38によって反応が強く抑制された。TAG2はNA2特異的mAb, GRM1で強く抑制された。TAG3はFcγ RIII特異的mAb, 3G8で強く抑制された。以上の結果から, TAG1はNA1抗原を, TAG2は主にNA2抗原とFcγ RIIIaを, TAG3はFcγ RIIIaとFcγ RIIIbの共通抗原を認識すると考えられた。同定困難な血清抗体の特異性を判定する方法として, mAbによる抑制試験を行った。NA1特異性のみられた血清抗体の反応は, NA1認識mAb, TAG1またはMG38またはTAG2で抑制され, NA2特異性のみられた血清抗体の反応は, NA2認識mAb, TAG2またはGRM1で抑制された。広範な反応性のみられた血清抗体は, しばしばFcγ RIII認識mAb, TAG3または3G8で抑制された。mAbによる抑制試験は, 血清抗体の特異性が推測でき, パネル好中球すべてと反応する広範な反応性を示す血清抗体の場合には特に有用であると考えられた。