本研究では1963年から1993年までに広島原爆障害対策協議会健康管理センターを受診し, ブドウ糖負荷試験にて糖尿病と診断され, その後死亡した2,156症例について, 糖尿病性腎症死亡に関する関連要因についての疫学的研究を行った。結果は以下の通りである。1)原死因の分析糖尿病患者における原死因をみると, 糖尿病性腎症を含む糖尿病死亡の割合は男性で4.7%, 女性では10.3%であり, 女性で有意に高率であった。2)登録時の臨床成績の分析糖尿病と診断された時点を登録時として糖尿病性腎症死亡群の特徴を検討すると, 他の死因に比して登録時の年齢が若く, 女性の比率が高く, 死亡時年齢は低く, 死亡までの観察期間は有意に長かった。また, 登録時の空腹時血糖値および2時間血糖値が有意に高値であった。3)対象集団を登録時の空腹時血糖値により3群に分け, 各々の糖尿病性腎症死亡の比率を見ると, 登録時の空腹時血糖値の上昇とともに有意に高率となった。4)登録時の尿蛋白陽性群は陰性群に比して糖尿病性腎症死亡が有意に高率であった。また, 初診時と最終受診時における尿蛋白の推移でみると, 尿蛋白持続陰性群, 陽性化群, 持続陽性群の順に糖尿病性腎症死亡比率は上昇しており, 陰性化群では有意に低下した。5)対象のうち経過観察を行えた1,156例について登録時と最終受診時の臨床検査成績を比較した。糖尿病性腎症死亡群ではBody Mass Indexは登録時が高く, 空腹時血糖値及び2時間血糖値は最終受診時が有意に高値であった。6)糖尿病性腎症死亡の登録時における関連要因を検討すると, 空腹時血糖値, 登録時から死亡までの観察期間, 尿素窒素, 収縮期血圧が有意に関連することが示唆された。以上の結果より, 糖尿病性腎症の進展及び死亡を防止するためには, 糖尿病の早期発見と血糖コントロールとともに血圧のコントロールも重要であると考えられる。また, 蛋白尿陽性者は陰性者に比して糖尿病性腎症死亡のリスクが高いことから, 蛋白尿陽性の糖尿病患者に対してはより厳格な管理が望ましいと考える。また, 経過中に尿素窒素の上昇傾向があれば糖尿病性腎症の予知マーカーとして注目し, 早期から低蛋白食を指導することが重要と思われる。