この論文では,失行症患者の日常生活動作における空間表象障害に注目し,リハビリテーション技術において動作レベルでの治療が可能かどうか考察した.近年の認知科学の研究論文のレビューから,失行の病態は頭頂葉の頭頂間溝周辺の機能損傷による空間表象障害と解釈されることが多いことが分かった.また,脳のラテラリティや運動発現のメカニズムなどの研究から,人の注意機能や運動記憶,運動イメージ,言語といった認知理論から失行症が研究されつつあることが明らかになった.この論文では,頭頂葉の異種感覚統合のモデルから感覚情報の変換を応用した治療介入について仮説を提示した.セラピストは,失行症患者が示すさまざまな日常生活の混乱を観察し,治療介入できるように要素的に解釈することが必要とされる.さらに病態解釈のための理論モデルを活用し,治療介入のために仮説を生成し検証していく必要があると考えられる.