本研究の目的は,スピードの違いによる動作特性をバイオメカニクス解析することで,連続した起立から歩行までの動作において速く動作するための要因を調査することである.対象は,本研究課題に影響を及ぼすような疾患や障害を有さない8名の高齢男性とした.課題は,椅子から起立し5m離れた場所に設置されたブザーを取りに行くものとした.動作遂行に要する時間を規定し,速い動作と遅い動作を定義した.運動学的データは,6台のカメラとVicon512を用いて収集した.動力学的データはキスラー社製床反力計2台を用いて収集した.その結果,速い動作における一歩目遊脚期踵接地時の床反力前後成分は,遅い動作と比較して有意に高値を示した.立脚側股関節角度と膝関節角度は,一歩目遊脚側足趾離床期と踵接地期において速い動作で有意に屈曲角度が大きかった.身体重心は,遅い動作と比較して速い動作において滑らかに移動した.得られた結果は,起立動作,歩行開始動作を個々に分析しても得られなかったであろう.今後更なる研究により,高齢者や障害を持つ者の転倒を予防し,健康増進に役立つ結果が得られるものと思われる.