鉄-糖錯体の調製に関する従来の報文は,アルカリ条件下で加熱するものが多い。これは糖の酸解離には望ましいが,反面糖のアルカリ酸化が進行し,生成した錯体はこのアルカリ酸化生成物が配位したものかも知れない。この点を重視して従来の調製法を再検討し,次いで得られた鉄(III)-糖錯体を一部食品の鉄強化剤として使用することの可能性を検討した。
望む鉄(III)糖錯体を調製するためには,(1)鉄/糖比を1/10にして,(2)pH10以上のアルカリ条件で,(3)酸化生成物が蓄積する以前(35°Cなら3時間以内)に反応を打切るのがよい。生成した錯体は,10倍量のエタノールを添加して沈澱させ,傾斜法で分別後減圧乾燥して保存した。
この標品の吸収性を,ウシガエルの腸管並びにセロハン膜の透過性によって調べたが,クエン酸鉄,乳酸鉄などより低かった。この理由は,鉄(III)-糖錯体が重合し,かなり高分子のポリマーとして存在するためであろうと考えた。