赤潮が頻発する福山周辺海域に8定点を設け,1970-1971年の間,冬期を除きほぼ毎月海水中のビタミンB12含量を測定した.採水は2m層から行ない,メンブランフィルターで沪過後,沪液についてLactobacillus leichmaniiを用いてビタミンB12を定量した.
結果を要約すると次の通りである.
1) この海域において,ビタミンB12は海水中からたえず検出され,その量は0.42~6.43mμg/lであった.
2) この両年にも赤潮は頻発したが,発生時に海水中のビタミンB12の含量に顕著な低下は認められなかった.季節変化は著しくはなかったが,高水温期(約18℃以上)にはビタミンB12含量は概して高く,梅雨期の塩分低下期である6-7月に最高を示し,9-10月にもやや増加の傾向を示した.
3) 河口から最も遠い(約6㎞)定点では,他の定点よりも幾分含量が低かった.なお,ビタミンB12の補給は,河水によるほか,海底泥にも由来するものと考えられた.
4) この海域においては,暖期には一般に2mμg/l以上のビタミンB12が海水中に溶存した.これはビタミンB12を要求するプランクトンが105cells/ml程度の集群を形成するに足る濃度である.従って,少なくともこの海域においては,ビタミンB12が暖期における赤潮の消長現象を制約する因子とは考えにくい.