笠岡湾大島におけるモガイ養殖場の環境条件と養殖モガイの成長,成長に伴う形態の変化等に関する調査並びにモガイの種苗生産を目的として生殖巣の成熟,産卵誘発,受精及び初期発生に及ぼす塩分濃度の影響等について実験,観察を行なって次のような結果を得た.
(1) 笠岡湾大島養殖場は,その水質(図2)および底質調査結果(表2,3)からみてモガイ養殖に好適な条件を備えている.
(2) 1年間(昭和45年5月~46年5月)のモガイの成長は,殼長についてみると,1年ものでは約0.8cmのものが3.4cm(増長分2.64cm)に達し,2年ものでは約2.7cmのものが4.8cm(増長分2.06cm)に成長した.
(3) 養殖場での全採集個体の計測値から得られた殼長と全重量,殼高及び殼幅の関係は,それぞれ図5,6及び7に示した通りである.
(4) 笠岡湾で1年養殖したもののうち,九州産種苗のものと大阪産種苗のものの形態について比較したところ,殼長と殼幅の関係における"位置"の差に有意性があり,同殼長の場合九州種は大阪種より殼幅の小さいことが認められたが,それは小型のものに顕著であった.
(5) 肥満度(肉重量/全重量)は,その値の低い8~12月の期間と1~7月の高い期間の二段階に大別された.雌雄別にみた肥満度は,年間を通した値では差はなかった(t=0.542<tα0.05=1.96)が,概して産卵期前は雌の方が高く,産卵期の後期およびそれ以後暫くは雄の方が高い値を示した.
(6) 笠岡湾養殖場におけるサルボウの生殖巣について,その発達過程を時期的に大別すると,1月から4月までは全体的に生殖細胞増殖期(生長前期,後期)に当り,5月から次第に成熟期に移る.6月から放出期個体の出現が見られ,7,8,9月は放出期に当るとともに,8月から放出後の濾胞期のものが増加し,それらは年末にかけて次第に次の生殖細胞増殖期に移行する.
(7) 笠岡湾養殖場における産卵期は6月から12月までの長期間に及ぶが,産卵盛期は7月から9月まである.
(8) 上記調査結果における生物学的最小形は雌雄とも殼長約1.5cm,重量約1.0gであり,また,産卵期間における性比は1:1であると認められた.
(9) 本種の放卵放精の誘発は,温度,精子懸濁液(放卵のみに対し),NH40Hによる刺激は何れも有効なことが認められたが,NaOH,KNO3の場合は無効であった.これらの反応に対する塩分条件の関係をみたところ,Cl14.08~24.40‰においては特にその影響はみられなかったが,Cl8.16および26.00‰においては誘発反応は阻止される.
(10) 殼長3~5cmの大きさのものの産卵数は大体500~1,000万個である.卵の大きさは直径51.38±3.78μである.
(11) 未受精卵を各塩分段階中に置いた場合,その受精および発生の能力はCl16.6‰前後の場合に最も長時間(22℃において,約13時間)保有されると認められる.
(12) 受精卵の発育に対する塩分条件は,D状ラーバに達するまでの歩留りからみるとCl15‰前後が最も適していると認められる.