著者らは,鞆の浦の社寺建築および社寺境内の石造文化として特に重要と思われる鞆の津塔について調査を行う機会を得た。1 基ごとに実測図を作成し,さらに造立年代や構造形式などについて調査を行った。その結果,鞆の津塔は,五輪塔と宝篋印塔の部材を混在させた石塔と考えられた. また基礎正面に束で2 分割した格狭間,両側面に通常の格狭間を彫ること,さらに隅飾が同時代の宝篋印塔と比べて外側への傾斜が極めて少なく伝統的であることなどが特色として挙げられた。またおおよその造立年代が17 世紀頃と推測され,約100 年の間に集中的に造立されたという可能性が指摘できた。さらに規模が大きく,そのような石塔の施主が商人であることなどが注目され,裕福な商人の経済力を背景に造立されたものと考えられ,鞆の浦の港町としての繁栄を物語る歴史資料として重要である。