わが国の高等教育機関は,戦前に種別化され,機能分化していたが,戦後の新制大学の設置によって制度的に画一化された。しかし,前身校に由来する予算や教員数に実態としての格差があり,大学院の設置はかなり限定されていた。1960年代から70年代にかけて,高度経済成長とマス化する大学教育を背景として,広島大学水畜産学部のような地方国立大学の理工農系学部にも修士課程が設置された。さらに,1980年代には地方国立大学の総合大学化が進行し,複数学部にまたがる博士課程も設置されるようになり,生物圏科学研究科が設置された。1990年代には大学院生の倍増計画の下,旧来からの博士課程を有する総合大学については,大学院の重点化による予算配分の上積みが行われた。2000年代初め,構造改革路線下で国立大学が法人化されて以降,運営費交付金が削減され続け,競争と評価に基づく大学の再編統合および選択的機能別分化と格差の拡大がわが国の大学政策の基本方針となった。2010年代に入り,グローバル化の進展下で教育の質保証,学長のガバナンス強化,産学連携強化と理系重視が進んでいる。しかし,日本の大学の教育研究面での国際的評価が年々低下しており,国立大学の運営費交付金削減による中央集権的統制は限界に達しているようにみえる。自由と分権を前提としている大学の教育研究には,教育研究条件を整備,充実させ,大学構成員の自発的,内発的な取組みを重視することが求められている。