九州北東部におけるアマゴの保全に関する研究
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Title ( jpn ) |
九州北東部におけるアマゴの保全に関する研究
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Creator |
Kimoto Keisuke
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Abstract |
第1章 諸言
アマゴOncorhynchus masou ishikawaeはサケ科に属する日本固有の亜種であり, 神奈川県以西の本州太平洋岸, 四国全域, 九州の瀬戸内海流入河川に自然分布する. 分布南限域である九州には河川型個体群だけが生息している. アマゴを含む在来サケ科魚類では, 種苗生産技術が確立された1970年代以降, おもに養殖魚の放流によって資源の維持・増殖がなされ, 効果を上げてきた. しかし近年, 放流された養殖魚が野生個体群の中に適応的でない遺伝子を流入させ, 異系交配弱勢や局所適応の崩壊をもたらす可能性が明らかにされている. また, 養殖魚の放流が長期にわたり継続された結果, アマゴを含む国内の河川性サケ科魚類の在来個体群は絶滅の危機にあり, 自然滝やダムで隔離された河川源流部だけに残存している. このように, 放流はアマゴを含む野生の河川性サケ科魚類の存続に悪影響を与える可能性が高いことから, 長期的な個体群の保全のためには実施すべきでないが, 漁業・遊漁による短期的な利用のためには必要である. 近年, 河川性サケ科魚類の保全と利用の両立を図るための方法として, 在来個体群の生息水域と自然再生産の実態に基づいて河川を区分し, 水域ごとに放流と漁業・遊漁管理手法を使い分けるゾーニングが注目されている. 本研究では,在来アマゴ個体群が生息する可能性の高い大分県大野川水系神原川と支流波木合川の一部区間および神原川が流入する緒方川の上流側区間を調査対象水域として, ゾーニング管理を導入するために必要な知見を得るために, 以下の4つの調査を実施した. 第2章 流程に沿った魚類群集の変化 大野川水系緒方川と支流神原川および波木合川に約1㎞ おきに設けた15の調査点において, 2003年10月, 2004年2月と8月に生息魚類の潜水目視観察を行い, 魚類群集組成の流程に沿った変化様式を調べた. すべての調査で4目7科14種(亜種を含む)が確認され, 総確認個体数は18,015個体であった. 魚類群集は,上流側調査点のアマゴとタカハヤが優占する単純な組成から, 下流側調査点のウグイやカワムツ等のコイ科魚類が優占するより複雑な組成へと明確に移行した. 多変量解析の結果, 15の調査点はアマゴとタカハヤが優占する上流側調査点(標高415-820m), ウグイ, カワムツ, タカハヤが優占する移行帯の調査点(260-397m)およびコイ科魚類とヨシノボリ類が優占する下流側調査点(232-255m)の3つのグループに分類された. さらに, これらの群集組成の変化様式は, 調査水域の流程(16.3km)に沿って単調な変化を示す6つの環境変量(河川形態型, 標高, 河床勾配, 平均水面幅, 流量および日平均最低水温)と有意に相関していたことから, 流程に沿った環境勾配に大きく規定されるものと考えられた. 一方, コイ科魚類, 特にタカハヤの個体群密度は流程に沿った単調な変化を示さず, 砂防堰堤下流側の移行帯で減少していた. こうした魚種別の個体群密度の変化は, 人為改変による生息環境の悪化を含む, より小さな空間スケールの環境要因に規定されるものと考えられる. 第3章 アマゴ浮上稚魚の流程分布 大野川水系緒方川と支流神原川に設けた14の調査区間(総延長16.3km)において, 2005年1-4月に2回(11-32日間隔)の潜水目視観察を行い, アマゴ浮上稚魚の流程分布を調べた. 浮上稚魚の個体群密度は上流側の4調査区間で高かったが下流側6調査区間では著しく低く, 流程分布の偏りは2回の調査を通じて変化しなかった. また, 2003年10月, 2004年2月および8月に調べた幼魚期以降の個体群密度も上流側で高く, 季節ごとに有意な相関を示した. さらに, 2005年1-4月における浮上稚魚の個体群密度と, 2004年8月における幼魚期以降の個体群密度は有意な相関を示した. これらの結果と, 既報が指摘するアマゴの河川型個体群における生活場所と産卵場所の近接を考慮すると, 九州の河川上流域では, アマゴ浮上稚魚は少なくとも約1か月間, 産卵床付近に留まるものと考えられる. 第4章 アマゴ浮上稚魚の生息場所利用 アマゴ生息域の下流側である大野川水系緒方川の1.4km区間において, 流路単位スケールにおける浮上稚魚の生息場所利用様式を調べた. 2007-2009年の1-3月にそれぞれ11, 3, 5回の潜水目視観察を行い, 連続した56区画(各25m)の両岸に沿って浮上稚魚数を計数するとともに, 各区画の環境変量(流路単位タイプ, 産卵床からの距離, 川幅水深比および左右岸の水深, 流速, 植生被度)を測定した. 浮上稚魚数は, 早瀬周辺の流路単位タイプと有意な正の相関, 沿岸水深および産卵床からの距離と有意な負の相関を示した. このうち, 早瀬周辺の流路単位タイプを利用する傾向は下流側水域に特有であった. これは, 浮上稚魚に高いエネルギー効率をもたらす好適な微生息場所(速い流れに近い緩流部分)が, 上流側では遍在するが, 下流側では早瀬付近に局在するためと考えられる. 一方, 流路単位スケールでこれらの条件が満たされていても, 微生息場所スケールの環境条件が不十分な場所では, 浮上稚魚が下流方向に移動する可能性が示された. 以上のことから, アマゴ生息域下流側において浮上稚魚の保全や増殖を図るためには, 早瀬周辺の流路単位タイプの内部に好適な微生息場所を整備すること, 環境収容力と稚魚の増殖量のバランスを考慮することが重要と考えられる. 第5章 アマゴ個体群の遺伝的構造 大野川水系支流神原川の最上流部に生息するアマゴの3隔離個体群(無斑型のイワメを含む)を保全するため, mtDNAを用いて遺伝的構造を調べた。神原川支流波木合川のメンノツラ谷にはイワメが生息し, 隣接するまんりょう谷のアマゴとともに生息域の大部分が禁漁であるが, 後者では1990年代に禁漁区の上流側で非公式な養殖魚の放流が行われたとの情報がある. 一方, 神原川源流部は開放されているが, これまで大野川漁業協同組合による公式な放流記録はない。得られた11種類のハプロタイプのうちHap-1は, すべての隔離個体群に見られ, イワメで固定(100%), 神原川源流部のアマゴで優占(90.5%)したほか, 神原川全体で採集したアマゴ浮上稚魚でも優占していた(62.8%)。一方, まんりょう谷のアマゴではHap-1は少なく(10.0%), 過去に放流されたと推定される養魚場のアマゴのハプロタイプが優占(70%)していた. これらの遺伝的構造とイワメ個体群の現在までの存続を考慮すると, メンノツラ谷のイワメと神原川源流部のアマゴは在来個体群であるが, まんりょう谷のアマゴは禁漁区の上流側で放流された養殖魚にほぼ置換されたと推測された。これらに基づいて3隔離個体群各々を単位とする保全案を作成し,漁業関連規則を改正した。 第6章 総合考察 第2章(流程に沿った魚類群集の変化)と第5章(アマゴ個体群の遺伝的構造)は,それぞれ個別の結果を示しながら, 第3章(アマゴ浮上稚魚の流程分布)と第4章(アマゴ浮上稚魚の生息場所利用)で見られた下流側水域における浮上稚魚の分布の制限要因として, それぞれ人為改変の影響(第2章)と養殖魚の放流の影響(第5章)を示唆している. 各章の結果から, 本調査水域のアマゴ個体群の現状として以下の結論が得られた; 1) 移行帯を含む下流側水域は, 人為改変の悪影響を受けている可能性がある. 2) アマゴ生息域の7割以上は移行帯を含む下流側水域に含まれる. 3) アマゴの自然再生産は移行帯より上流で良好, その下流では低調である. 4) 在来アマゴ個体群は神原川の一合目滝より上流と波木合川のメンノツラ谷(イワメ)に生息している. 5) まんりょう谷では, ヒーバチの滝の下流側はほぼ養殖魚にほぼ置き換わっているが, 滝の上流側には在来個体群が生息している可能性がある. 6) 移行帯を含む下流側水域には, 非在来個体が生息している可能性がある. これらの実態に基づき, 保全(ゾーニング)方法として以下が導出された; 1) 神原川の一合目滝から上流全域において漁業, 遊漁, 放流を禁止. 2) 波木合川の現行禁漁区の上限を撤廃し, 白水橋から上流全域において漁業, 遊漁, 放流を禁止. 3) 両禁漁区より下流側では漁業と遊漁および放流を可能とする. 4) 移行帯では, 浮上稚魚の生息場所整備や放流の見直しにより, 自然再生産の促進を試みる必要がある. これらのゾーニング案は, 地元住民, 大野川漁業協同組合, 遊漁者, 地元行政(竹田市)等で組織した委員会に受け入れられた. 2009年までに漁業関連規則が改正され, 現在, 本研究結果に基づくアマゴの保全が実施されている. |
NDC |
Zoology [ 480 ]
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Language |
jpn
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Resource Type | doctoral thesis |
Publish Type | Not Applicable (or Unknown) |
Access Rights | open access |
Dissertation Number | 甲第6806号 |
Degree Name | |
Date of Granted | 2015-09-25 |
Degree Grantors |
広島大学
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