ヒトおよびラット胃壁におけるペプチド含有神経の分布と病的状態下での変化に関する研究
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種類 :
全文
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タイトル ( jpn ) |
ヒトおよびラット胃壁におけるペプチド含有神経の分布と病的状態下での変化に関する研究
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タイトル ( eng ) |
Peptide-containing Neurons of Rat and Human Stomachs in Normal and Various Pathologic Conditions
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作成者 |
加藤 芳朗
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抄録 |
胃腸管に分布する自律神経系には多種のペプチドが含有されており、神経伝達物質としての役割だけでなく,内分泌細胞とともに消化,吸収,連動等の機能調節を担っていることが示されている。しかし,ヒト正常胃壁および,その病的状態におげるペプチド含有神経の変化については十分な解析がなされていない、そこで,ラットとヒト胃壁におけるペプチド含有神経の分布を比較し,胃炎,潰瘍粘膜あるいは癌腫等の病的状態における分布の変化を免疫組織化学的に検討した。得られた成績は以下の如く要約される。
1.ヒト胃粘膜には,種々のペプチド含有神経線維が腺管に沿って走行していた。分布密度はVasoactive intestinal polypeptide (VIP),ボンベシン,Substance P (SP), Peptide histidine isoleucine (PHI)の順で高く,他方,Neuropeptide Y (NPY),ガラニン含有神経は稀であった。この内,SP含有神経は幽門腺領域に,ボンベシン含有神経は胃底腺領域において分布密度が高く,ボンベシン含有神経と胃酸分泌との関係が組織学的に窺われた。また,少数のソマトスタチン含有神経が幽門腺領域に分布していた。 2.ラット胃粘膜では,Calcionin gene-related peptide (CGRP),VIP,ボンベシン,PHI,SP,ガラニン含有神経の順で分布密度が高かった。CGRP含有神経はVIP含有神経と同等の分布密度を示し,ラット胃粘膜における役割はヒトに比し大きいと推察された。ボンベシン含有神経はヒトと同様,胃底腺領域でより豊富に見い出された。幹迷走神経切除を施行した5匹では,各種ペプチド含有神経の分布に変化は見られなかった。 3.ラット,ヒト胃粘膜では,ソマトスタチン含有(D)細胞,セロトニン含有(EC)細胞は胃底腺領域と幽門腺領域に疎に,ガストリン含有(G)細胞は幽門腺領域で比較的密な分布を示した。内分泌細胞周囲にペプチド含有神経が見られたが,神経終末が結合する所見は認められなかった。また,ヒトではソマトスタチン,ラットではCGRPを除き,内分泌細胞と神経にはそれぞれ異なったペプチドが存在することが明らかにされた。 4.ヒト胃粘膜下組織ではVIP,PHI,SPが,ラットではVIP,CGRPが,動静脈血管壁に密に分布し,かかるペプチドによる血流調節作用が組織学的に窺われた。一方、ヒト粘膜下神経叢の神経細胞には,表層部のMeissner神経叢でボンベシン,深層のSchabadasch神経叢でSPとソマトスタチン免疫活性が,VIP,PHIは両者において見い出された。他方,ラットでは神経細胞体を有する粘膜下神経叢は見い出されず,神経線維は筋層の神経叢に由来するものと見做された。 5.胃固有筋層では,平滑筋細胞に沿って,ペプチド含有神経線維が見い出された。その分布密度は内側の輪状筋層で高かった。ヒト胃壁筋層では,VIP,PHI,SP,ボンベシン含有神経が豊富に見い出され,ラット胃壁筋層では,VIP,CGRP,ボンベシン,SP,ガラニン,PHI,βエンドルフィン含有神経の順で分布密度が高かった。幽門括約筋では,VIPおよびSP含有神経の分布密度が極めて高く,幽門輪の閉鎖,開大運動に際して,これらのべプチドが複雑に関与していることが示唆された。 6.ヒト胃固有筋層間のwhole mount標本では,VIP,SP,ボンベシン,NPY,CGRP免疫活性を有する神経線維束の三次元構造が示され、神経細胞体にも免疫活性が見い出された。これらのペプチド含有神経はヒト胃壁に内在する自律神経の一部であった。ラット胃固有筋層間のwhole mount標本では,VIPをはじめとする各種ペプチド含有神経が複雑に分布する像が見い出された。 7.寒冷拘束負荷60分で,24例中22例(91.6%)のラット体部線大弯側を中心に急性出血性潰瘍(びらん)が発生した。同部ではVIPとボンベシンに対する免疫反応が減少ないし消失していた。寒冷拘束負荷解除12時間後にはびらんが残存していたが,神経のVIP,ボンベシン免疫活性は正常部とほぼ同程度に回復していた。急性潰瘍の発生時には,VIP,ボンベシンか過度に放出,枯渇するが,神経線維は残存し,ストレス負荷解除によりそれらペプチドは急速に補充されるものと見倣された。 8.ヒト胃慢性消化性潰瘍では,潰瘍周辺再生粘膜には何れのペプチド含有神経も見い出せなかった。潰瘍底には,VIP,SP,ボンベシン免疫活性を有する幅の広い神経束が多数見い出された。潰瘍周辺の筋間神経叢において,VIP,SP,ボンベシン免疫活性がいずれも増強しており,潰瘍底へと幅の広い再生神経線維を延ばしていた。 9.萎縮性胃炎では,ペプチド含有神経が減少していた。VIP,SP含有神経線維は,走行および分布が不規則となっていた。リンパ濾胞の周囲にはペプチド含有神経は認められたが,濾胞内には見い出せなかった。腸上皮化生の進展初期には,上記ペプチド含有神経の分布密度が高かったが,化生が完成した粘膜部分では神経線維は減少していた。また,腸上皮化生粘膜においては,内分泌細胞の多い部分では神経線維が少なく,分布が逆相関していた。胃炎粘膜,腸上皮化生粘膜ではペプチドによる調節のバランスが不均衡になっているものと考えられた。 10.胃腺腫では,何れのペプチド含有神経も殆ど見い出せなかった。一方,胃癌において,乳頭状腺癌,高分化型管状腺癌,中分化型管状腺癌の14例の癌組織内のペプチド含有神経は著しく減少しており,VIP含有神経は早期胃癌の1例,進行癌の2例で,また,SP含有神経は各々1例,2例でのみ見い出された。他方,低分化型腺癌においては,早期胃癌の2例,進行胃癌の2例のいずれにおいてもVIP,SP含有神経が見い出され,特に,VIP含有神経の分布密度は高かった。この内,VIP含有神経は,紐状となったり,奇異な形態を示すものか多く,走行も不規則であった。神経線維の再生像は認められなかった。 以上の結果より,ペプチド含有神経はヒト,ラット胃壁に内在する自律神経の一部として複雑なネットワークを形成しており,胃酸分泌,血流調節,蠕動等において重要な役割を担っていることが示唆された。胃炎,胃潰瘍あるいは癌組織等の病的状態におけるペプチド含有神経の消失,減少は神経調節の変調ないし欠落の表現とも見倣された。 Peptide-containing neurons of rat and human stomachs in normal and various pathologic conditions were examined immunohistochemically using cryostat sections and whole mount preparations. A variety of peptide-containing neurons formed a dense network in all layers including ganglia of both rat and human stomachs.
In whole mount preparations three dimensional structure of Auerbach's nerve plexus and various peptides-immunoreactive nerve cell bodies and fibers could be observed in both human and rat stomachs. Truncal vagotomy did not affect the distribution of peptide-containing nerve fibers in rat stomach. Peptide-containing nerve fibers generally decreased in gastritis and intestinal metaplasia. VIP-and bombesin-containing nerve fibers could not be detected in ulcer lesions induced by cold stress. Nerve fibers containing various peptides regenerated from neighboring ganglion into the chronic ulcer lesions of human stomach. Gastric tubular adenoma and well differentiated adenocarcinoma of human stomach were characterized by the almost complete absence of peptide-containing nerve fibers. VIP-and SP-containing nerve fibers with bizarre configuration and irregular distribution were seen in all the lesions of poorly differentiated adenocarcinomas. Based on the distribution of various peptides containing neurons, the pathophysiological roles of these peptides in the regulation of normal stomach and the development of pathologic conditions are discussed. |
著者キーワード |
Stomach
Peptide-containing neurons
Endocrine cells
Immunohistochemistry
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NDC分類 |
医学 [ 490 ]
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言語 |
日本語
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資源タイプ | 博士論文 |
権利情報 |
Copyright(c) by Author
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出版タイプ | Not Applicable (or Unknown)(適用外。または不明) |
アクセス権 | オープンアクセス |
収録物識別子 |
広大医誌, 38(6), 1069-1100, 平2・12月 (1990)
~を参照している
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学位授与番号 | 甲第939号 |
学位名 | |
学位授与年月日 | 1991-03-25 |
学位授与機関 |
広島大学
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