金属クラスターの電子状態の殻構造に関する理論的研究
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種類 :
全文
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タイトル ( jpn ) |
金属クラスターの電子状態の殻構造に関する理論的研究
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作成者 |
園田 幸治
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抄録 |
金属クラスター中の価電子が示す殻構造は,金属クラスター特有の物性に大きな影響を与えている.特にアルカリ金属クラスターおよび貴金属クラスターにおいて観測される魔法数は殻構造を直接反映した観測量である.現在までにNaクラスターにおいては原子数が数万個までのクラスターで魔法数が観測されてはいるが,その電子状態の殻構造のサイズ依存性との関係に関する定量的な解明は十分になされていなかった.よって,本研究では,金属クラスターの電子状態の殻構造のサイズ依存性に関する理論的解明を試みた.
電子状態の殻構造を定量的に求めるために,金属クラスターの模型としてはジェリウム球を採用した.また,密度汎関数理論のKohn-Sham方程式を局所密度近似した交換・相関エネルギーを用いて解くことにより,電子状態の計算を行った. これらの方法を採用して,金属クラスターの電子状態のサイズ依存性および金属クラスター中の遮蔽効果を系統的に調べ,それらの振舞いに現れる殻構造に対する考察を行った.金属クラスターの電子状態のサイズ依存性において,特に電子密度分布および全エネルギーに関して詳細に調べ,その結果から殻構造に関する様々な知見を得ることができた.電子密度分布のサイズ依存性を系統的に調べた結果,電子分布のピークの高さ,電子分布の広がり,表面からの電子のしみだし等のサイズ依存性を,価電子の波動関数の性質を用いて説明することができた.一方,全エネルギーに現れる殻構造を評価するために,液滴模型を利用して導出した殻効果によるエネルギー(シェルエネルギー)のサイズ依存性を調べた結果,N=34~40およびN~200において,シェルエネルギーの振動の振幅にくびれが生じることが明らかになった.N=800~1000付近において,同様のくびれが見られることが以前から指摘されていたが,さらに小さなサイズにおいてもこのような殻構造の質的変化が見られることを初めて指摘した. 金属クラスター中の遮蔽効果においては,ジェリウム球の中心に点電荷を置き,そのときに生じる電子密度分布の変化から表面電荷分を差し引くことにより導出された遮蔽電荷分布のサイズおよび電子密度依存性を系統的に調べた.その結果,金属クラスター中の遮蔽電荷分布は,N=20,40,58という小さなクラスターサイズの場合でも,バルク系での場合と定性的には同様に振舞い,分布の裾の振動周期はFriedel振動の値に近く,さらにN=92,198程度のサイズになると,その分布はバルク系の場合とほとんど一致することが明らかになった.また,様々な電子密度の金属クラスターに対する遮蔽電荷分布の振動周期は,その電子密度に対応するFriedel振動の周期にほぼ等しく,rsでほぼスケールすることができることを示した.中心部分の遮蔽電荷分布に寄与する軌道は主として1s軌道であり,また振動周期を形成する軌道は最高占有s軌道であることが判明した.これらの遮蔽効果の機構はバルクジェリウムでの遮蔽効果との対応付けができ,エネルギー準位の離散性は遮蔽効果に定性的にも定量的にも大きな影響を与えないことが明らかになった. これらの結果を基にして,金属クラスターの電子状態の殻構造の考察を以下の3つの点に関して行った.i)殻構造のサイズ依存性,ii)s軌道電子の量子条件,iii)電子の状態密度.i)においては,N=34~40およびN~200における殻構造の質的変化とエネルギー準位の縮退のサイズ依存性に関する考察を行うことにより,N=1~2000の範囲で観測されている魔法数の振舞いを表す4つの数列を導出することに成功した.この考察により,エネルギー準位がサイズの増加と共に2n+l的縮重,2n+lおよび3n+l的縮重,3n+l的縮重,4n+l的縮重へと変化していくことが明らかになった(ここで,nは動径量子数に1加えたもの,lは軌道角運動量量子数).それらの変化が生ずるサイズがN=34~40,~200および800~1000である.ii)においては,s軌道の電子が直径2Rの球中に閉じこめられているとして,その電子の量子条件を提案した.iii)においては,ii)の量子条件を基にして,金属クラスターのエネルギー準位とその状態密度との関係を考察し,金属クラスター中の電子のエネルギー準位の縮退に関する多くの知見が得られた.それらをもとにして,有限サイズでの状態密度を評価する方法を提案し,任意のサイズでの状態密度を半定量的に示すことに成功した. 以上のように,金属クラスターの電子状態の殻構造に関する理論的研究を行った結果,以下の知見が得られた.(1)金属クラスターの電子密度分布のサイズ依存性を,その分布を構成する各軌道の波動関数の性質により説明することができた.(2)液滴模型を用いることにより,金属クラスターの全エネルギーに現れる殻構造を調べた結果,金属クラスターの電子状態の殻構造はサイズの増加に伴って質的に変化していくことが示された.殻構造にその変化が起こるサイズは,N=34~40,N~200およびN=800~1000である.エネルギー準位は,そのサイズを境にして,2n+l的縮重,2n+lおよび3n+l的縮重,3n+l的縮重,4n+l的縮重へと変化していくことが明らかになった.その殻構造の質的変化を反映したN=1~2000での魔法数の振舞いを4つの数列で表すことに成功した.(3)s軌道の電子に対する量子条件を用いて,金属クラスター中の価電子の波数を見積もることができた.その結果,金属クラスター中の価電子の状態密度をバルク金属のそれと比較することに成功し,エネルギー準位が不均一に分布している金属クラスターでの状態密度から,サイズの増加と共にバルクでの連続準位の状態密度へと変化していく過程を示すことができた.(4)金属クラスターにおける遮蔽効果のサイズ依存性を調べた結果,数十個からなる系においてもその遮蔽効果はバルク金属の場合とほぼ同様に振舞うことを示し,その理由を波動関数の性質により説明することができた. |
内容記述 |
目次 / p1
1 序論 / p3 1.1 はじめに / p3 1.2 本研究の背景 / p3 1.3 本論文の目的および構成 / p5 2 金属クラスターの電子状態の計算方法 / p8 2.1 球形ジェリウム模型 / p8 2.2 密度汎関数理論~Kohn-Sham方程式 / p9 3 金属クラスターの電子状態のサイズ依存性 / p12 3.1 電子密度分布,有効ポテンシャルおよびエネルギー準位 / p12 3.2 電子密度分布のサイズ依存性 / p14 3.3 全エネルギーのサイズ依存性 / p19 4 金属クラスター中の遮蔽効果 / p23 4.1 遮蔽電荷の導出法 / p24 4.2 遮蔽電荷分布 / p25 4.3 遮蔽効果のサイズ依存性 / p32 4.4 遮蔽効果の密度依存性 / p34 4.5 遮蔽効果に対する各軌道の寄与 / p34 4.6 バルク金属の遮蔽効果との比較 / p37 5 電子状態の殼構造に関する考察 / p42 5.1 殼構造のサイズ依存性 / p42 5.2 s軌道電子の量子条件 / p50 5.3 電子の状態密度 / p51 6 結論 / p57 謝辞 / p60 参考文献 / p61 |
NDC分類 |
電気工学 [ 540 ]
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言語 |
日本語
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資源タイプ | 博士論文 |
権利情報 |
Copyright(c) by Author
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出版タイプ | Not Applicable (or Unknown)(適用外。または不明) |
アクセス権 | オープンアクセス |
学位授与番号 | 甲第1526号 |
学位名 | |
学位授与年月日 | 1996-03-26 |
学位授与機関 |
広島大学
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