ラッピング加工特性に及ぼすラップ液の影響

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Title ( jpn )
ラッピング加工特性に及ぼすラップ液の影響
Title ( eng )
Effect of Lapping Liquid Properties on Lapping Behavior of Materials
Creator
Tomoda Susumu
Abstract
本論文は、ラッピングという機械的な研磨加工で発現する現象をラップ液の物理化学的変化を通して理論的な解明を行い、その結果に基づいて、ラップ液のpHを指標としたラッピング加工方法を提唱したことについて述べている。以下に各章で得られた結果を要約する。

第1章は緒論で、まず、ラッピング加工の特徴を述べ、加工上の解決しなければならない問題点について指摘した。ついで、本研究の目的と意義について述べた。さらに、ラッピング加工に関する国内外の研究状況について触れ、本研究の必要性を明らかにし、本研究の概要を述べた。

第2章では、いわゆるラップ焼けと称される加工損傷のメカニズムの解明と防止方法を検討するための研究を黄銅を用いて行った。具体的には、界面活性剤水溶液のラップ液を用いたときのラップ焼け面の観察、蛍光X線によるラップ焼け面の付着物分析、光学顕微鏡によるラップ焼け面の側方からの観察、ラップ焼け面の水素還元、非酸化性ラップ液を用いた加工に関する実験を行った。その結果、黄銅のラップ焼けは、従来から言われているような試料表面に生じる酸化が主な原因ではなく、ラップや砥粒からの破砕粉および加工粉の一部がラッピング過程で試料表面に付着あるいは埋め込まれて微小粉の層をつくる現象であることを明らかにした。界面活性剤水溶液のラップ液がラップ焼けを防止したり、加工能率を向上させるという本章の研究結果から、加工中に果たすラップ液の物理化学的作用の重要性を指摘した。

第3章では、ラップ液に使用した界面活性剤の極性がラップ焼けと加工量に及ぼす影響を調べた。その結果、ラップ焼けの防止にはアニオン系界面活性剤がカチオン系や非イオン系界面活性剤と比較して、特に、効果的であることを見いだした。また、加工能率は、ラップ液を水とした場合と比較して、界面活性剤水溶液を使用した方が高くなることがわかった。さらに、界面活性剤がラップ焼けを防止するメカニズムについて検討した結果、ラップ焼けの防止のメカニズムはラップや試料からの帯電した微小粉に界面活性剤分子が吸着することで生じる微小粉の分散現象に起因していることを明らかにした。

第4章では、第3章で述べた微小粉の帯電現象を検証するための実験を行った。まず、砥粒の結晶構造の解析を行って、その結晶系を調べた結果、結晶構造がα-Al2O3であって、表面は電気的に負に帯電していることがわかった。次に、結晶系が明らかになったAl2O3砥粒をアセトンと沃素の電解液中で電気泳動を行い、水素イオンが砥粒表面へ吸着することを実証した。砥粒表面への水素イオンの吸着現象を考察することにより、ラッピング加工中に破砕された砥粒表面には水素イオンが吸着し、ラップ液のpHが破砕による砥粒の表面積変化に対応して変化することを明らかにした。その結果、ラップ液のpHがラッピングの加工条件の変化をインプロセスで把握できる指標(観測量)になりうることを見いだした。

第5章では、第4章で見いだしたラップ液のpHを指標としたラッピング加工の基礎的な実験を行い、加工中の砥粒破砕とラップ液のpHの関係を調べた。その結果、ラップ液のpHを測定することにより、加工中に生じる砥粒の破砕状態を定性的に知ることができ、また砥粒の破砕現象に関連する最適なラップ圧力と最適なラップ剤濃度の推定が可能になった。さらに、ラップ液のpHを指標とした加工方法はラッピング加工の自動化へ発展する可能性があることも明らかにした。

第6章では、ラップ液のpHを指標としたインプロセス計測により、ラッピング加工の適正条件が求まることを開ループ加工システムで実証した。すなわち、位相差型精密自動研磨機を主体にした加工システムの構成を行い、ラッピング加工中に生じるラップ圧力、加工速度、ラップ剤濃度あるいは加工面積の変化をラップ液のpH変化としてインプロセスで計測できた。さらに、構成した開ループ加工システムには非線形な要素が多く含まれてくることがわかり、このシステムのフィードバック制御を実現するためには制御対象の線形近似が必要であることを明らかにした。

第7章では、第6章で得られたラップ液のpHを指標とした加工システムの制御対象(ラップ液のpH)の線形化、および加工システム構成の可能性を概観した。

その結果、ラップ液のpHを指標としたラップ剤濃度変化の特性を二次遅れ要素に近似することができた。従って、ラップ液のpHを制御量とした加工機械の作成が可能であることが展望された。

本論文は従来あまり強調されてこなかったラッピング加工において発現する物理化学的作用の重要性を指摘したものである。本論文では主にラップ焼けとラップ液のpHについて追究したが、ここで得られた基礎的研究の結果は、物理化学的作用を考慮に入れた加工損傷の少ない高精度なラッピング加工の実現やフィードバック制御を備えたラッピング加工の自動制御の実現のために不可欠な知識を提供するものである。本論文の成果を活用して、ラッピング加工を実際に自動化することが今後の差し迫った課題であり、本論文申請者は引き続きその問題に取り組んでいる。
Descriptions
目次 / p1
第1章 緒論 / p1
 1.1 はじめに / p1
 1.2 本研究の目的と意義 / p2
 1.3 本研究に関する従来の研究 / p3
 1.4 本研究の内容 / p5
第2章 ラッピング加工損傷(ラップ焼け)とラップ液 / p8
 2.1 はじめに / p8
 2.2 実験方法 / p9
 2.3 実験結果 / p12
 2.4 考察 / p24
 2.5 小括 / p27
第3章 ラッピング加工量とラップ焼けに及ぼす界面活性剤の極性の影響 / p28
 3.1 はじめに / p28
 3.2 実験方法 / p28
 3.3 実験結果 / p33
 3.4 考察 / p38
 3.5 小括 / p46
第4章 ラッピング加工中におけるラップ液の性質の変化 / p47
 4.1 はじめに / p47
 4.2 界面電気二重層 / p48
 4.3 実験方法 / p50
 4.4 実験結果 / p53
 4.5 考察 / p62
 4.6 小括 / p67
第5章 加工の進行にともなうラップ液のpH変化 / p69
 5.1 はじめに / p69
 5.2 実験方法 / p69
 5.3 実験結果 / p71
 5.4 考察 / p82
 5.5 小括 / p89
第6章 ラッピング加工条件のpHによるインプロセス計測 / p91
 6.1 はじめに / p91
 6.2 実験方法 / p91
 6.3 実験結果 / p94
 6.4 考察 / p104
 6.5 小括 / p106
第7章 ラッピング加工特性の制御の可能性 / p107
 7.1 はじめに / p107
 7.2 制御対象 / p108
 7.3 制御対象の二次遅れ要素への近似 / p110
 7.4 ラップ液のpHを制御量としたフィードバック制御の取り扱い / p113
 7.5 小括 / p114
第8章 総括 / p115
参考文献 / p118
本論文に関する公表論文 / p122
謝辞 / p123
NDC
Mechanical engineering [ 530 ]
Language
jpn
Resource Type doctoral thesis
Rights
Copyright(c) by Author
Publish Type Not Applicable (or Unknown)
Access Rights open access
Source Identifier
(1) 矢野久由、友田進: 制御対象の二次おくれ近似によるPID制御系の構成について、商船高等専門学校紀要、10 (1978) 122. references
(2) 友田進、矢野久由: 制御系へのマイコン導入について、弓削商船高等専門学校紀要、1 (1980) 49. references
(3) 友田進、矢野久由: 制御系へのマイコン導入について(その2)、弓削商船高等専門学校紀要、2 (1981) 51. references
(4) 友田進、菅原章、稲垣耕司、厨川常元; 黄銅のラップ焼けについて、東北大学科学計測研究所報告、30、1 (1981) 1. references
(5) 友田進: ラップ焼けと界面活性剤の極性について、弓削商船高等専門学校紀要、6 (1984) 127. references
(6) 友田進: 界面活性剤の極性と加工量について、弓削商船高等専門学校紀要、7 (1985) 57. references
(7) 友田進、菅原章、稲垣耕司: 黄銅のラップ焼けについて、精密機械、51、11 (1985) 2133. references
(8) 友田進、菅原章: ラップ液のpHに関する研究、精密工学会誌、54、2 (1988) 372. references
(9) 友田進、菅原章: ラップ液のpHに関する研究(第2報) : ラッピング加工のインプロセス制御、精密工学会誌、56、1 (1990) 158. references
(10) S.Tomoda, A.Sugawara : Studies on pH of Lapping Liquid (Part 1) : For the Observation of Lapping Process, Bull. Japan Soc. of Prec. Engg., 24, 4 (Dec. 1990) 291 references
(11) S.Tomoda, A.Sugawara : Studies on pH of Lapping Liquid (Part 2) : In Process Measurement of Lapping, Int. J. Japan Soc. Prec. Eng., 25, 1 (Mar. 1991) 24 references
[NAID] 110000474545 references
[NAID] 110000474563 references
[NAID] 110000474674 references
[NAID] 110000474695 references
[DOI] http://dx.doi.org/10.2493/jjspe1933.51.2133 references
[DOI] http://dx.doi.org/10.2493/jjspe.54.372 references
[DOI] http://dx.doi.org/10.2493/jjspe.56.158 references
Dissertation Number 乙第2278号
Degree Name
Date of Granted 1992-07-09
Degree Grantors
広島大学