中小企業金融円滑化策と倒産・代位弁済の相互関係 : 2変量固定効果モデルによる都道府県別パネル分析

経済分析 176 号 1-18 頁 2005-06 発行
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タイトル ( jpn )
中小企業金融円滑化策と倒産・代位弁済の相互関係 : 2変量固定効果モデルによる都道府県別パネル分析
タイトル ( eng )
Facilitation of Fund Supply and Small Business Failures
作成者
竹澤 康子
堀 雅博
収録物名
経済分析
176
開始ページ 1
終了ページ 18
抄録
長引く不況と金融危機の中で、各種の中小企業支援施策が繰り返されている。1998年には中小企業金融安定化保証制度(いわゆる特別信用保証制度)が設けられ、その利用は累計29兆円に及んだ。また、同年には中小3公庫にも20兆円の貸し出し枠が設けられた。こうした政府当局の積極姿勢は近年の中小企業金融を特徴づけるものだが、他方、倒産や代位弁済率の上昇による保証協会の負担増など、費用(将来負担)の発生が社会的にも無視できない状況となっている。

本研究では、まず、対中小企業貸出と信用保証政策の80年代以降の推移をマクロ時系列で概観した後に、1)倒産件数比率、2)信用保証残高、及び3)中小企業向け貸出の関係を整理し、その整理に基づいて3者の相互関係を連立方程式で推定した。具体的には、都道府県別のデータ(1995~2001年度)を用い、パネルの2変量固定効果モデルの3段階最小自乗推定を試み、中小企業貸出増進策と銀行・企業行動の関係、政策効果とコストに関する分析を行った。結果解釈のポイントは、信用保証等の90年代後半に強化された中小企業貸出策が、期待される本来機能を発揮し、優良中小企業の発展・成長に寄与していたか、それとも単なる倒産の先送りに過ぎなかったかである。

マクロ時系列の概観からは、1)90年代後半、中小企業の借入依存は異常な水準まで高まっていたこと、2)借入依存の高まりは特別保証等の中小企業金融円滑化策に後押しされていたこと、等が明らかになった。

また、都道府県データのパネル分析の結果からは、1)信用保証は中小企業向貸出を増加させ当座の倒産率を引下げることが確認された一方、特に98年度以降の時期において、2)信用保証利用の拡大が後の倒産率(代位弁済率)の上昇につながっていた、3)倒産率の上昇による信用リスクの高まりが長期的な貸出抑制につながっていた、等の事実が見出された。

本稿の分析結果は、中小企業金融円滑化策(特に98年度以降のそれ)が期待される本来の機能を十全には発揮できていない可能性を示唆している。信用保証や公庫貸出に期待されるのは、厳格な審査・情報生産で優良な企業を支え、倒産件数や代位弁済率を抑制することである。98年度以降の特別信用保証や公庫貸出は一時的に倒産を減少させたものの、次期以降の倒産・代位弁済を増加させる結果につながった。つまり、支援策は倒産を先延ばしにする効果しか生んでいなかった可能性が高い。

90年代後半に見られる中小企業の異常なまでの借入依存状況を踏まえるならば、中小企業の再生に本当に必要な対応は貸出増進ではなく、財務の健全化にあったと言えないだろうか。
This paper investigates the effectiveness of policies to facilitate fund supply for small and medium enterprises (SMEs) in late 1990s in Japan. We set up a panel on Japanese prefectures from FY1995 to FY2001 to estimate a system of equations of i) Lending to SMEs, ii) Credit Guarantee Outstanding, and iii) Business Failures by error components 3SLS.

We found Japanese SMEs are too much indebted to pay back their borrowings from their earnings. Estimated coefficients of the system of equations suggest that, despite their high social costs, fund supply facilitation policies did nothing but delaying the timing of small business failures. SME problems in Japan cannot be dissolved by temporary credits. We would argue that what are really needed to resolve the difficulties of small firms are measures to help reorganizing heavily-indebted firms rather than the measures to promote unprofitable lending.
著者キーワード
中小企業金融
信用保証
企業倒産
財務再構築
SMEs' finance
credit guarantee
business failures
NDC分類
経済 [ 330 ]
言語
日本語
資源タイプ 学術雑誌論文
出版者
内閣府経済社会総合研究所
発行日 2005-06
出版タイプ Version of Record(出版社版。早期公開を含む)
アクセス権 オープンアクセス
収録物識別子
[ISSN] 0453-4727
[NCID] AN00049685