いわゆる「鉄芯」入り青銅剣(バイメタル青銅剣)とされてきた広島大学考古学研究室所蔵資料についての再調査を行う。バイメタル青銅剣は、紀元前800~1200ごろ年にカスピ海南部の山岳地帯において出現する金属器で、鉄利用の初期の様相を明らかにするうえで重要である。西アジア北部地域における鉄製利器の祖型として、鉄製棒状部品を内蔵する青銅剣(「鉄芯」入り青銅剣)の存在が指摘され、編年・機能研究が行われてきた。しかし、当該資料はおそらく現代において改変された青銅柄鉄剣であったことが判明した。他機関所蔵品の知見も加味すると、研究対象の多くに同様の可能性があり、「鉄芯入り」青銅剣を前提に導かれたこれまでの知見や議論は根本的な見直しを迫られることになる。紀元前2000年紀の終わりにカスピ海周辺に出現する「鉄芯入り」青銅剣が実は青銅柄鉄剣であったわけであり、それ以前に鉄製利器の導入期といった、より原初的な初期鉄器の実態がある可能性が高くなる。今回の再調査はそうした研究の脆弱性を露呈し、西アジアにおける初期鉄器時代の議論を転換する結果となった。