インドの大衆向け映画は,その特徴的なフォーマットから「ボリウッド映画」の異名をもち,ジャンル映画としての性格をもつ。先行研究では,経済開放後の人々の嗜好と観客層の変化を,特定のジャンルと社会階層とを対応させることで描出してきた。本稿もジャンルとその観客層に注目し,ボリウッド映画を取り上げ,先行研究で対象とされなかったジャンルも分析に加え,2000年代後半以降を中心としたトレンドを補完することを目的とする。その際,インターネット上に公開されている映画情報を活用し,データからインド映画の概況を把握したうえで,ジャンルと観客層の関連を分析した。
以上の結果,経済開放以降,短い周期で作品のトレンドが変遷していることが確認できた。その要因には観客層の分化があり,制作側がターゲットをどこに当てるか苦慮している様子がうかがえる。その対応の一環として,メインストリーム映画において多くの観客層を取り込むための内容の揺り戻しが生じたり,あえて大規模ヒットにこだわらないテーマ重視の小規模予算映画が出現したりするなど,観客層の取り込みをはかった試行錯誤が続いている状況が明らかになった。