哺乳類ポリコーム遺伝子群産物は,クロマチンサイレンシングに関するタンパク質の複合体を形成し,「細胞の遺伝子発現メモリー機構」に重要であることが知られている。数百以上存在すると考えられる標的遺伝子の発現維持に関与していることが想定されており,代表例として形態形成に必須なホメオボックス遺伝子群,細胞周期関連の遺伝子としては,p16^<INK4o>,p21^<CipI/WafI>,c-mycなどについては研究が進んでいる。mel-18は哺乳類ポリコーム遺伝子群として我々の研究グループが世界で最初に単離したものである。mel-18欠損マウスでは,胸腺のT細胞の分化はCD4^-CD8^-からCD4^+CD8^+への過程で障害されていた。T細胞分化に関与する重要な因子の一つに,遺伝子再構成を制御するRag-1/2タンパク質がある。Rag-2タンパク質は細胞周期を制御するCDC2やCDK2によってリン酸化されることにより,不安定化され分解されることが知られている。mel-18欠損マウスの胸腺におけるT細胞の分化段階では,CDC2/CDK2の活性が上昇していることと,Rag-2タンパク質の減少が相関していた。さらに,T細胞の遺伝子再構成は障害されていた。一方,mel-18過剰発現マウスでは,rag-2mRNAの発現は正常コントロール群と変わらないがタンパク質レベルは増加していた。また胸腺細胞の細胞周期のGO/G1期は延長していた。S期,G2/M期でRag-2が増加すればT細胞のaberrantな遺伝子再構成が増加することが知られている。mel-18過剰発現マウスでは,Rag-2タンパク質の過剰発現が見られるがS期,G2/M期の比率の減少も起きていることから,aberrantな遺伝子再構成はほとんど検出できなかった。以上のように,我々はmel-18遺伝子の欠損,過剰発現と,Rag-2タンパク質の安定性およびサイクリン依存性キナーゼ活性に相関があることを見出した。この結果から,ポリコーム遺伝子群はT細胞受容体の遺伝子再構成を制御している可能性を示唆した。