放射線被曝は, がんの死亡や発症のリスクを有意に高めることが明らかにされているが, がん以外の疾患についてはいまだ定かではない。本研究では広島大学原爆放射能医学研究所に登録されている44,514人(男性17,935人, 女性26,579人, 被爆時の平均年齢22.8±15.7歳)の原爆被爆者を対象として1968年から1997年までの30年間に及ぶ死亡追跡調査に基づいて放射線被曝とがん以外の疾患との関連について検討した。がん以外の疾患は全死因のうち67%を占めている。がん以外の疾患のうち, 57.6%は循環器疾患による死因であり, 次いで呼吸器疾患16.1%, 消化器疾患8.8%の順であった。被爆者個人の被曝線量と死亡の関連をポアソン回帰分析にて解析し死亡の相対リスク(RR)を求めた。がん以外の疾患計でみると固形がんの線量反応よりは弱いが1Sv被曝でRR=1.06と有意であり, 特に1Sv以上の高被曝線量域から死亡リスクが高くなることが認められた。また男性に比べて女性の被爆者の方により強い線量反応がみられた。死因別にみると男女計では循環器疾患, 脳血管疾患, 泌尿器疾患で有意な放射線によるリスクが認められ, 肺炎では示唆的なリスクの増加であった。追跡年次別に検討すると前半15年間よりも後半15年間のほうが線量反応は高くなる傾向があった。追跡年次別パターンを被爆時年齢別に検討すると固形がんの相対リスクは追跡年次とともに低下傾向がみられる一方でがん以外の疾患の相対リスクは増加する傾向が認められた。特に若年被爆者においてその傾向は顕著であった。本結果から, がん以外の疾患の死亡においても有意な放射線によるリスクが認められ, 被爆者に占める若年被爆者の割合が増加していくにつれて更に放射線リスクが増加していく可能性が示唆された。