Insulin-like growth factor binding protein related protein-1(以下IGFBP-rP1)は, IGFBPファミリーに属する遺伝子で, IGFとの結合を介したIGF依存性の作用の他に, IGF非依存性の多岐にわたる作用経路の存在が示唆されている。IGFBP-rP1は乳癌や前立腺癌などの悪性腫瘍において発現の低下が認められており, 前立腺癌や骨肉腫の細胞株に導入することにより増殖抑制効果がみられることからtumor suppressor geneの可能性が示唆されている。本研究では, 肝癌の発生, 増殖におけるIGFBP-rP1の役割を明らかにするため, 放射線誘発マウス肝癌とその培養系細胞株を用いてIGFBP-rP1の発現とその機能について解析した。まずB6C3F1マウスの正常肝組織と肝癌組織におけるIGFBP-rP1の発現をノーザンブロット法で比較したところ, 肝癌組織では正常肝に比しIGFBP-rP1の発現の低下がみられた。また, 培養系細胞株では足場非依存性増殖能の強い細胞株においてIGFBP-rP1の発現低下が著明であった。そこでマウス正常肝より作製したcDNA libraryからIGFBP-rP1遺伝子をクローニングし, 発現ベクターを用いて肝癌細胞株へ導入し, その増殖能への影響について検討した。その結果, IGFBP-rP1を導入した細胞株では倍加時間の延長と細胞増殖能の低下が観察され, 同時に足場非依存性増殖能の著明な低下を認めた。さらにこの導入細胞を同系マウスに移植しその増殖能を検討したところ, 導入細胞の腫瘍形成能の低下を認めた。またヒト肝癌についてもノーザンブロット解析において, IGFBP-rP1の発現低下を認めた。これらの結果より, IGFBP-rP1の発現低下が肝癌の発生, 増殖に関与している可能性が示唆された。