手の微小血管外科の分野における臨床的問題点を解決することを目的とし, 手の橈側部を中心としたヒトの手の血行を解剖学的に研究した。方法は, 解剖用保存遺体96手に動脈造影を行い, 立体X線撮影で得られた写真を立体鏡を用いて3次元的に解析し, ヒトの手の動脈血行を検討した。固有掌側指動脈のすべての本幹が橈骨動脈あるいは尺骨動脈である手が存在し, 皮弁を作製するために橈骨動脈あるいは尺骨動脈を前腕部で結紮すると手の循環障害を引き起こす危険が存在することが解った。母指掌側指動脈と示指橈側掌側指動脈の関係を体系化することにより, 複雑な第1指間部の手の血行の理解を容易にすることができた。母指橈側背側指動脈として2本の血管を確認した。母指尺側背側指動脈の本幹として3つのタイプを認め, 血管柄付き皮弁の有用性を再確認した。第1背側中手動脈尺側枝が, 示指橈側背側指動脈に関与しない手を3.2%に認め, 第1背側中手動脈尺側枝を用いた背側島状皮弁が必ずしも安全でない手が存在した。母指掌側指動脈の動脈径を橈側と尺側で比較すると, 橈側が太い手が多かった。母指尺側指動脈の動脈径を掌側背側で比較すると, 背側が掌側と同等もしくは太い手を36.3%に認めた。母指橈側背側指動脈を除く母指指動脈は, 血管吻合の動脈として選択可能な動脈と考える。第1指間部を中心として複雑なヒトの手の血行を体系的に把握することにより, 臨床面での問題点に対していくつかの知見を得た。