最近, Helicobacter pylori(以下H.pylori)が各種胃・十二指腸疾患の病因のひとつに挙げられている。H.pyloriの細胞障害性には, H.pyloriの産生する空胞化サイトトキシン(VacA)ならびにサイトトキシン関連蛋白(CagA)の好中球機能に対する影響が重要であると言われている。本研究は, H.pyloriの胃・十二指腸疾患における胃粘膜障害の機序を解明するため, 胃・十二指腸疾患患者よりH.pyloriを分離後, 培養し, その培養上清の好中球生存率および遊走能に対する効果を, vacAならびにcagA遺伝子の存在との関連下に検討した。培養株はvacA^+ cagA^+型株またはvacA^+ cagA^-型株の二通りのみであった。cagAの存在するH.pylori培養上清はcagAの存在しないものより強く好中球の遊走能を活性化した。一方, vacA^+ cagA^+型株またはvacA^+ cagA^-型株の培養上清は, 好中球生存率に影響を与えなかった。以上の結果は, vacA^+ cagA^+型, vacA^+ cagA^-型いずれのH.pylori株も好中球の生存率へは影響を与えないが, どちらも好中球遊走活性化能を持つこと, さらにはvacA^+ cagA^-型株よりもvacA^+ cagA^+型株の方が強い活性化能を持つことを示している。本研究の成果は従来のH.pyloriの胃粘膜障害で報告されている, 直接的障害説および好中球を経由しての間接的障害説を実証する上での一助となる。