ラットのがん原遺伝子c-yesをラット肝臓全cDNAよりクローニングした。その遺伝子産物c-Yesは541アミノ酸から構成され, 分子量は60.6kDaで, マウス, ヒト, メダカc-Yesの一次構造と各々98,96,82%一致した。Srcファミリーチロシンキナーゼのc-Yesは, キナーゼおよびユニークドメイン内チロシン残基の分子間自己リン酸化に伴い酵素活性が促進される。ユニークドメイン内の自己リン酸化部位およびそのリン酸化が酵素活性に与える影響を調べる目的で, ラットc-Yesのユニークドメイン内自己リン酸化部位と推定されるTyr16あるいはTyr32をPheに置換した変異型(Y16F, Y32F)および野生型をSf9昆虫細胞に発現させた。3種類のラットc-Yesは2種類のカラムを用いていずれも均質に精製された。各精製酵素の比活性は, ラット肝臓より精製したc-Yesの比活性とほぼ同等であり, いずれの酵素も基質へのリン酸取り込み速度が酵素濃度の二乗と直線関係を示し, 分子間触媒機構により活性化された。野生型, Y16FおよびY32F変異型c-Yesは自己リン酸化により1モルあたりそれぞれ1.57,0.71,0.91モルのリン酸がチロシン残基に取り込まれた。自己リン酸化した3種類のc-Yesをトリプシン消化し, 二次元ペプチドマップで解析した結果, ユニークドメインのTyr32とキナーゼドメインのTyr424が主な自己リン酸化部位と判明した。しかし, 野生型, Y16FおよびY32F変異型c-Yesは自己リン酸化により4,2.5,3.9倍の酵素活性化が認められた。ユニークドメインのリン酸化は酵素活性に影響がないと考えられた。