肝細胞癌をMRIで評価した場合, T2強調像で低信号を呈するものにしばしば遭遇する。これは通常他の部位でみられる悪性腫瘍の信号強度のパターン, すなわちT2強調像で高信号化することと比べて奇異な現象である。本研究はMRIによる肝細胞癌のT1,T2強調像における信号強度を再評価すると同時に, T2強調像で低信号を呈する原因を組織学的に検討し, 次のような知見を得た。1.検討対象となった195結節のうち, T2強調像で周囲肝実質より低信号を呈したものは16結節(8.2%)であった。また全体で157結節(80.5%)はT1あるいはT2強調像の少なくとも一方で高信号を呈していた。2.SE法によるT2強調像で低信号を呈した5結節についての組織学的検討では, 低信号化に直接関与すると考えられる因子のうち, 凝固壊死像は結節内に指摘できず, 鉄沈着は結節内に有意に多い所見は得られなかった。グリコーゲン沈着については結節内, 外それぞれに有意に多い症例があり, 一定の傾向は得られなかった。3.腫瘍結節内外での核細胞質比の比(N/C比T/L)と腫瘍結節内外での信号強度比(信号強度T/L)との間には正の相関(p<0.01,r=0.653)を, 結節内外での単位面積あたりの細胞質面積比(細胞質面積T/L)と信号強度T/Lとの間に負の相関(p<0.01,r=-0.769)をそれぞれ危険率1%以下で認めた。以上の結果から, 肝細胞癌は通常の悪性腫瘍とは異なる信号強度のパターンをとるものが存在する事を念頭に置き, 診断に際しては安易に良性病変としないことが重要と考えられた。また低信号化に直接関与する組織学的な因子があるのではなく, N/C比に代表される分化度が信号強度に関与していることが示唆された。