藝術研究 25 号
2012-07-21 発行

19世紀における自然科学の作品化と「崇高」 : アーダルベルト・シュティフターの文学 <査読論文>

Literarische Transformation der Naturwissenschaften im 19. Jahrhudert und das Erhabene <Article>
中野 逸雄
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Abstract
本稿は「自然科学の作品化と崇高」という観点から美学史的な「崇高」の概念史を改めて参照し、19世紀における文学作品を題材に美的カテゴリーとしての「崇高」が包含する文化史的な広がりを明らかとする。対象となるのは19世紀オーストリア、リアリズム文学を代表する作家アーダルベルト・シュテイフター(AdalbertStifter 1805-1868)である。シュティフターの自然像に関しては、これまで二つの大きな観点から分析がなされてきた。一つはシュテイフターが物語において「風景」を描くにあたって反映させた「自然科学Jへの関心。そしてもう一つはこのようなリアリズムに規定されて描き出された広大な自然像の特徴を「崇高J(とりわけカントの『判断力批判jKritik der Urteilskraft 1790における「数学的崇高」)という美学的な概念において規定しようとする試み。  

本稿ではこれらの成果を前提としつつも、近代自然科学史のコンテキストと「崇高」の概念史の接点を近代科学における地質学の発展史の内に求める。そして、シュテイフターの文学作品(とりわけ代表的長編『晩夏nの中に「崇高」の経験と密接に結び、ついた地質学へのいわば「美的関心jが反映されていることを確認する。こうした作業を通して、シュティフターの「崇高」の表現を具体例に、自然の空間経験の記述を舞台とした、19世紀における科学と美学との対立を字んだ緊密な関係性を再構成する。
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