藝術研究 24 号
2011-07-23 発行

知恩寺所蔵重要文化財善導大師像について <査読論文>

Portrait of Zendou-Daishi in Choin-ji Temple <Article>
高間 由香里
全文
1.39 MB
GeijutsuKenkyu_24_1.pdf
Abstract
念仏時に口中より化仏が出現したという、唐の浄土教家善導和尚の奇瑞を絵画化した知恩寺本善導大師画像は、従来、南宋画を原本として、半金色の「夢の善導」の意味を付与した鎌倉時代の作品と言われる。しかし、像高を三尺阿弥陀像に合わせ、僧祇支に仏の袈裟特有の宝相華で、作った団花文を置く善導と、5体の化仏の先頭に立ち、法然を想起させる僧形の化仏とが視線を交わすという本図の図様は、従来の説とは必ずしも一致しない。むしろ、衣裳の現実的な構造を考えれば、袈裟の「下着」である僧祇支を金色とする本図が文字表記される際に誤訳が起き、衣の別なく下半身を金色とする「夢の善導」を生んだと考えられる。  

加えて本図では、14世紀初頭の制作を確信させる丁寧な筆致や賦彩が目を引く一方、全体的な均衡や整合性の著しい欠如、衣裳の不自然な重量感と硬質感、老人特有の肉の弛みがない面貌など不可解な点も認められる。  

この諸特徴に鑑みて本図の原本を探せば、南宋作の彫像であり、且つ壮年形である聖衆来迎寺所蔵善導大師立像に行き当たる。各所の違和感は彫像の絵画化と顔の向き修正によって生じ、面貌は法然との関係上、壮年の顔に鍍を伏して老僧に改変したと考えれば納得がいく。  

さらに、阿弥陀=善導=法然という関係性を標務する図様や同時代の各善導像との表現の類似から、本図の制作背景には、14世紀初頭の如一国師による本山整備と一連の善導像造立が想定できる。
内容記述
本論文は、平成二十三年七月二十四日開催の広島芸術学会第二十四回大会(広島県立美術館会場)において口頭発表した内容に加筆・修正したものです。
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