スポーツ哲学の一領域にスポーツ美学がある。これまでイギリスとアメリカを中心に、スポーツの美をめぐるさまざまな問題が個々の論文でそれぞれに論じられているが、その体系的な見通しはこれまで不明瞭である。スポーツ美学とは一体何なのか。この問題に関しては学問論からの検討も必要であろうが、しかし、何よりも銘記すべきは、スポーツ美学はスポーツの美を研究対象とし、それについて考察を展開する「スポーツの美の学」であるということである。したがって、スポーツ美学の問題領域は、スポーツの美の考察を展開するための問題領域でなければならない。本論文の目的は、スポーツの美の体系的な考察を展開するための視点としての問題領域を設定し、それに応じてこれまでの諸研究を検討し、スポーツ美学の研究の展開の様相を洞察することである。(1)スポーツ観戦者の美的体験、(2)スポーツ実践者の美的体験、(3)スポーツにおける美的対象、(4)スポーツにおける美的価値の原理、の4つの問題領域が設定された。