サンズイのもともとの意味である‘水'とイトヘンの‘糸'を意味的な基準として,それぞれの部首を含む漢字を意味的な類似性をもとに配置した意味空間において,漢字間の距離を多次元尺度法で比較検討した.さらに,これらの漢字をクラスター分析で分類した結果,漢字が3つのグループに分けられた.まず第1は,サンズイとイトヘンから直接に漢字の意味がイメージできるようなグループである.これは,漢字の意味の想起に部首が直接のヒントを与えうるような漢字である.第2は,サンズイの場合は自然界での水に関係した現象を表した漢字,イトヘンの場合は糸と関係した行為から変化した漢字である.第3は,サンズイやイトヘンから直接にイメージできないような漢字であった.これらの漢字は,部首の意味が漢字の意味と関係がないと思われる.以上のように,本研究は,同じ部首を含む漢字でも,それらの意味が多様化しており,漢字の意味理解に対する部首の影響も異なっていることを示唆した.