放射線被曝は,がん死亡や発がんリスクを有意に高めることが明らかにされている。また,がん以外で放射線被曝と有意な関連が見られる疾患があることも報告されている。しかしながら,被爆者の平均余命と放射線の影響に関する報告は多くない。本研究では,広島大学原爆放射線医科学研究所に登録されている被爆者228,764人(男性103,050人,女性125,714人)を用い, 1975,1980,1985,1990,1995年の各年次における被爆者の生命表を作成し平均余命を算出した。さらに,生命表から死因別死亡確率および特定死因を除去した場合の平均余命の延びを求め,放射線被曝の余命への影響についても検討した。1975~1995年において,被爆者の平均余命は男女ともに年々延びており,50-54歳の平均余命の延びは,男性2.45年,女性4.32年であった。また,1975年と比べて,男性で1985年以降,女性で1980年以降,平均余命は有意に延びていた。被爆状況別では,入市およびその他の被爆者と比べて,男女ともに直爆者で余命は短い傾向にあった。死因別死亡確率は,がん,肺がん,大腸がん,前立腺および乳がんで上昇する傾向が認められた。特に,がんは男女ともに直爆者で有意に高い傾向にあり,男性では有意に上昇していた。一方,胃および子宮がんは年々低下する傾向にあった。特定死因を除去した場合の平均余命の延びは,男女ともにがんを除去した場合が最も延びが大きかった。被爆状況別で,がんを除去した場合の余命の延びは,入市およびその他の被爆者と比べて男女ともに直爆者で大きく,特に男性の直爆者で延びは大きかった。生命表法を用いた本研究において,入市およびその他の被爆者と比べて直爆者におけるがん死亡は放射腺の影響を受けていることが確認され..