ヒスタミンならびにヒスタミンレセプターが脊髄後角に高濃度に存在することが明らかになっており,ヒスタミンが痛みの伝達に何らかの調節機構を有していると考えられている。そこでラット脊髄横断スライス標本を作製し,赤外線微分干渉型顕微鏡システムを併用したパッチクランプ法による電気生理学的手法を用いて脊髄後角第2層細胞(膠様質細胞)におけるヒスタミンの作用を検討した。保持電位を-70mVとすると,膠様質細胞からは自発性の興奮性シナプス後電流が観察された。さらに後根神経入力部に電気刺激を加えると誘発興奮性シナプス後電流が観察された。また保持電位を浅く0mVに保持すると,自発性の抑制性シナプス後電流が観察された。これらのシナプス後電流に対するヒスタミンの効果を電気生理学的に検討した。自発性興奮性シナプス後電流に対しては,頻度の相対変化率がヒスタミン投与後に122±39%となり,軽度の増加がみられたものの,統計学的に明らかな有意差はみられず,振幅の増大もみられなかった。ヒスタミンはH1受容体に結合し,protein kinase C(PKC)系に作用し,何らかの作用をおこすと考えられているため,PKC系の活性化剤であるphorbol 12,13-dibutyrate(PDBu)を投与したが,明らかな変化はみられなかった。後根神経入力部電気刺激による誘発興奮性シナプス後電流,ならびに自発性抑制性シナプス後電流においても頻度や振幅の明らかな変化はみられなかった。今回の電気生理学的な検討からは有意な変化をとらえることができず,脊髄後角膠様質細胞における電気活動に対してヒスタミンが顕著な作用を有する可能性は低いと考えられた。